第47話 残念そうな大人達

「ああ、いらっしゃい。悠真くん」


 リビングの扉を開け入ってきた誠二さんは俺に気がつき笑顔で挨拶をした。


「お、お邪魔してます」

「すまないね、急に夕食に招待しちゃって」

「あ、いえ、家にいても僕一人だとコンビニの弁当とかなので有り難いです」

「そうか、よかったよ。着替えて来るから、もう少し待っててもらえるかな?」


 誠二さんはそう言うと自室へと向かい、スーツから着替えてきた。


「待たせたね、それじゃあ頂こうか」

「「「いただきます!!」」」

「い、いただきます……」


 こうして、天音家での二度目の夕食が始まった。


「どうだい悠真くん、最近は」

「そうですね……特に変わりなく楽しくやってます」

「そうか、変化がないというのもなかなかいいものだからね」

「そ、そうですね……」


 食事が始まってから誠二さんは他愛もない話しかしてこない……。

 あの雑誌の話を聞きたいって言ってたから身構えていたけど、渚の言う通り心配なんてする必要なかったな。


 少し安心しつつ食事をしていると、渚が少し緊張したような面持ちで話しかけてきた。


「ねえ悠真くん、どうかな?」

「……ん?どうってなにが?」

「もー!夕飯のことだよ!前に悠真くんが好きって言ってたからハンバーグを作ったんだよ?」

「あ、ああ!ゆ、夕飯のことか!もちろん、めちゃくちゃ美味しいよ!」

「ほんとうかなぁ……」


 渚は頬膨らませていると、


「あらあら悠真くん、さっきの返事はいただけないわね」

「……す、すみません」

「いい?女の子が自分のためにご飯を作ってくれたら自分から真っ先に褒めてあげなきゃね」

「は、はい……気をつけます」

「自分が作った物を褒められて嫌な気持ちになる女の子なんていないわ」


 由香里さんにも指摘をされ、女心についての指南を受けた。


 その後、由香里さんの仲介もあり渚は機嫌を直し食事を楽しんでいると、ついに誠二さんはあの話題を切り出してきた。


「──そういえば……悠真くん、君は何やら渚と雑誌に載っていたらしいね?」

「あ、は、はい」


 つ、ついに危惧していた話題だ……。

 なかなか聞いてこないからてっきり今日は聞かれないと思って安心しきっていた……。


「実は、僕も妻に見せてもらったことで知ったんだが……」


 少しの間の後、誠二さんは力強く俺の両肩を掴んできた。


 ち、力強ぇ……どこにそんな力が?

 俺、無事に帰れるか……?


 力強く肩を掴む手を見ながらビビっていると、


「──いつからだい?」


 な、何がだ?

 何がいつからなんだ?

 大切な娘をたぶらかしたのはいつなのか?とかそういうことか?


「いつから……いつから二人は付き合っていたんだい?」


 顔を上げた誠二さんは少しワクワクしたような表情を浮かべ尋ねてきた。


「……へ?」

「え?付き合っているんじゃないのかい?」

「あ、あの……付き合ってはないです……」

「そ、そうだよ!パパ!私と悠真くんは付き合ってないよ!」

「そうなのかい?てっきり雑誌でも手を繋いでいるし、由香里さんもこれは間違いないって言っていたから付き合っているものだとばかり……」


 誠二さんは拍子抜けをしたといった表情を浮かべていた。


「あらあら、私の早とちりだったみたいね。ごめんなさい、あなた」

「仕方ないさ、あれを見れば誰だってそう捉えるだろうからね。それにしても、それならどうして手を繋いでいたんだ……?」

「確かにそれもそうねぇ……」


 二人は真っ当な疑問を抱き、何か尋ねるような目でこちらを見つめてきた。


「え、えっと……」


 な、なんて言い訳をすればいいんだろう……。

 あの時のことを正直に話したところで手を繋ぐ必要が無いと言われればそれまでだ。

 どうしたらいいんだ……。


「あ、あの時はカメラマンさんの要望で、仕方なく手を繋いだの!わ、私も悠真くんも恥ずかしかったけど仕方なく!」

「そ、そうなんです!カメラマンの人がなかなか強引な人で……!」


 渚の機転の利いた言葉に便乗するように続いた。


「そうなのか……でも、それにしてはなかなかいい表情をしているようだけど」

「そ、それは、カメラマンの腕がいいんですよ!」


 何とか絞り出した言葉に、誠二さんと由香里さんは納得したような表情を浮かべた。


「それにしても残念だなぁ……」

「ほんとねぇ」

「二人とも何が残念なの?」

「そりゃあ、僕たちの可愛い渚に悠真くんのようなとてもいい彼氏が出来たと思ったからだよ」

「ママもパパも悠真くんが家族の一員になると思ってとても喜んだのよ?」


 二人の表情から冗談を言っているわけではない気がした。


「それにしても、どうして撮影をするとこになったんだい?」

「それは──」


 誠二さんに撮影をする事になった経緯を尋ねられ、俺はその経緯を説明した。


「──なるほど。そんな偶然が……二人ともいい経験をしたね。どんな分野であれ、プロの仕事をその歳で経験できることはそうあるものじゃない。今回の経験は今後の人生に大いに活きるはずだよ」


 誠司さんは優しい笑みを浮かべ、俺と渚に言った。


「まぁ欲を言えば、二人がお付き合いをしていれば良かったんだが……」

「そうねぇ……二人がお付き合いするまでもう少しだけかかりそうね」

「もー!二人ともやめてー!!」


 最後に少し残念そうな表情を浮かべ冗談を言う二人に渚は頬を赤くしながら怒っていた。

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