第39話 都合のいい目と気持ち悪い感情

「あ、おはよう!向坂くん!」


「おっす!向坂!」


「おはよ!向坂くん」


 学校に着き、教室の扉を開けるとクラスメイト達は次々に挨拶を口にする。


「……ああ。おはよう」


 クラスメイトからの挨拶。

 散々無視してきた俺に笑顔を浮かべる姿に、なんとも言い難い感情が湧いたが、明らかに聞こえている挨拶を無視する訳にもいかず挨拶を返した。


 この一週間でガラリと変わった俺に対する反応。

 本当なら嬉しいはずの変化だが、俺はどうにも気持ち悪さを拭いきれずにいた。


「ねぇ、向坂くん。また撮影する予定とか無いの?」


 クラスの女子が友達を数人連れ、俺に話しかけて来た。


「……無いよ。何回も言ったけど、これは偶然だったんだ。顔見知りが居て手助けすることになっただけだ」

「でも、もしかしたら『また』があるかもしれないでしょ?」

「それは無い。もし、また頼まれたとしても今度は断る」


「えー、もったいなーい」

「ほんとほんと!向坂くんイケメンだから、もっと撮影すればいいのにー」

「ねー!もっと見たいよねー」


 勝手に盛り上がる女子生徒の姿に、俺は先程の気持ち悪さを再び感じた。


 そして、この気持ち悪さの正体に俺はすぐに気がついた。


 この女子達は、俺の外側だけを見ている。

 いや、外側にしか興味が無いんだ。

 俺を見ているようで、その目には本当の俺は映っていない。自分達に都合のいい俺しか目に映らないんだ。

 そして、今まで自分たちが無視してきた俺なんて知らなかったかのように接してくる。

 俺と関わることにおいて、不都合になり得る部分は徹底的に目を向けないようにしている。


 その、自分にとって都合のいい事しか映らない、見ようとしない姿勢に気持ち悪さを覚えているんだ。


 これは俺が学園中のヤツらに感じていた気持ち悪さの正体でもあった。


「もし、また撮影する事があったら教えてよ!私たち見学してみたいから」

「……わかった。もうそんな機会はないと思うけどな」


 面倒に思った俺はとりあえずの返事を返した。


「やった!ありがとね!私、モデルのハヤトくんのファンだから会えるといいなぁ」

「ミキもハヤトくんのファン?私もなんだー!」

「私も私も!」


「いやー持つべきものは友だねー。もしかしたらハヤトくんに会えるかもしれないし」

「「「ねーー!!」」」


「何話してるんだ?」


 俺の前で女子が盛り上がるのに気がついた、クラスの男子が話に加わろうと近づいてきた。


「向坂くんに、また撮影することが無いのか聞いてたの」

「ああ!この間、雑誌に載ってたやつか!で、どうなんだ?向坂」

「それがね、また同じような機会があっても今度は断るんだってー」

「マジかよ!もったいねぇー!」

「ね!もったいないよね!」

「俺ならせっかくモデルと知り合いになれるかもしれない機会を見す見す逃す事はしないのに」

「ホントホント!」


 クラスメイトは俺そっちのけで盛り上がり始めていた。


 コイツらが今の俺に優しくして、話しかけているのは俺に対する評価が一変したからでは無い。

 俺に優しくして、仲良くなれば、モデルやその類の業界の知り合いと繋がれるかもしれない。もしかしたら、俺がこれから社会的地位が向上するかもしれない。そうなった時、自分たちの不都合は無くしておきたい。多少なりともお零れに与りたい。

 そういった浅ましい考えを持っている事が想像に難くない、俺の顔色を伺いつつ、俺の事なんて映っていない目で俺に接している。


 そして、その空気が学園中に伝わり俺に対する態度の変化が起きた。

 だからこそ、クラスメイトや学園中の態度の変化は、喜ばしいなんて感情は浮かばない。


 むしろ、気持ち悪さを覚えるものなんだ。




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