第18話 天音家での夕食
「──ただいまー!」
玄関の方から男性の声が聞こえてきた。
「あ、パパが帰ってきたわよ」
あ、天音のお父さん。一体どんな人なんだろう。
もし、怖い雰囲気の人で……『俺の居ない間に家に転がり込んで妻や娘に──』って事になったりしたら……いや、考えるのはやめよう。
そんな俺の心配をよそにリビングの扉が開くと、眼鏡をかけた優しそうな雰囲気の男性が入ってきた。
「おかえりなさい、パパ」
「ただいま、ママ」
天音父は帰ってきて早々、由香里さんと何やら甘い雰囲気で挨拶をかわしていた。
……な、なんだあの二人
「き、気にしないで。あれいつもだから」
「……わ、わかった」
天音父は由香里さんとの挨拶をそこそこに、俺の方に向き直し、
「君が、向坂悠真くんだね?渚の父の
優しい笑顔を浮かべ挨拶をしてくれた。
「あ、はい!向坂悠真です。渚さんには仲良くしてもらっていて……突然お邪魔して申し訳ないです」
「若いのにしっかりしているね。妻から話は聞いているよ。二人はお付き合いしているんだって?」
「「……え?」」
「え?違うのかい?」
俺と天音は慌てて由香里さんの方を見ると、うふふ、と笑いながら誤魔化していた。
「あ、あの、俺たちは友達ではあるんですけど付き合ってはないです」
天音父は困惑した表情で由香里さんに尋ねた。
「……ママ?どういうこと?」
「あら、私としたことが勘違いしてたみたいね、うふふ」
──か、確信犯だ……!
恐らくこの時の天音父と俺らの考えは一致していたはずだ。
それほどまでに、俺ら三人は同じような衝撃を受けた顔をしていた。
「ゴ、ゴホン。と、とにかく、渚と仲良くしてくれてありがとう。今日は遠慮なく食べてもらって構わないからね」
「は、はい!ありがとうございます!」
少々手違いがあったものの、俺は天音家に夕飯をご馳走になった。
「どうかしら、お口に合うといいのだけど」
「めちゃくちゃ美味しいです!!こんな美味しいの久しぶりに食べました!!」
久しぶりの温かい料理は最高に美味しく、口いっぱいに頬張りながら答えた。
「よかった!まだまだ沢山あるから、遠慮なくおかわりしてちょうだい」
「ありがとうございます!!」
俺はご飯をさらにかきこんだ。
「いい食べっぷりだね。こうして一緒に食卓を囲むと息子が出来たみたいで嬉しいよ」
「そ、そんな……恐れ多いです」
「嘘じゃないよ。いっその事向坂くんをうちの子にしたいくらいだよ」
「あははは……」
少し戸惑いつつ苦笑いを浮かべると、由香里さんもいい考えと手を叩き、
「悠真くんなら渚を任せても安心だものね」
「そうなんだ。若いのに挨拶もしっかりしていたし、なにより渚が連れてきた初めての男友達だ。これ以上ないと思わないかい?」
「そうね……悠真くんは好青年だし、お顔も可愛らしくてイケメン。それに、渚も悠真くんのことが気になっているみたいだし……」
「ほお!そうなのか。ママが言うのなら──」
二人の間でなにやら着々と話が進んでいき、その様子を見ていた天音は、
「ちょ、ちょっと!パパもママも!向坂くん困ってるよ!!」
と顔を赤くしながらも何とか止めた。
「あら、ごめんなさい」
「す、すまない、向坂くん。つい舞い上がってしまった」
「い、いえ。こういう家族の会話みたいなの久しぶりで聞いてて楽しかったです」
「ありがとな、天音」
小声で天音に礼を言うと天音は申し訳なさそうに笑みを浮かべた。
──その後も食事を楽しんでいると、
「あ、向坂くん、口にお米ついてるよ」
「え?どこ?こっち?」
「──反対」
天音は俺の口元についた米を取りそのまま自分の口へと運びパクッと食べた。
「はい、取れたよ」
「……ありがとう」
「あらあら、二人ともお付き合いしてないとは思えないほど仲良しねぇ」
「そうだね。まるで、結婚前の僕たちを見ているみたいだ……」
天音の両親は、昔の自分たちと目の前の俺たちを重ね微笑ましそうに眺め、二人の視線に気づいた俺と天音は、自分たちの行動の恥ずかしさに思わず下を向いた。
ご飯を楽しみ過ぎて完全に気を抜いてた。
あんなのまるでカップルみたいじゃないか……!
だ、だめだ。変な勘違いするな。
俺は自分の心に強く言い聞かせた。
***
食事が済み、『せめて皿洗いだけでも』と由香里さんに申し出たが、『お客さんは座ってて』と言われ、俺は渋々先程まで座っていた席に戻った。
「二人は同じクラスなのかい?」
何もすることがなく、ソワソワしている俺に天音父が話しかけてきた。
「あ、いや。クラスは別なんです。というか、同じクラスにはまだなったことないです」
「ほお、それじゃあ、いつ渚と知り合ったんだい?」
天音父の質問に天音の方をチラッと見ると、小さく頷いたため俺は初めて会った時のことを話した。
「渚さんは元々学校でも有名でしたので……その、可愛くて……それで、僕もある意味有名というか……元々お互いに存在は知ってはいたんです。でも、初めて話したのは──」
「──なるほど……そんなことが……」
「はい。本当に偶然というか……たまたま助けたのが僕だっただけで──」
天音父は机に両手をつき、深く頭を下げた。
「渚を……娘を助けてくれてありがとう」
「そ、そんな!頭上げてください!助けたのは本当に偶然で、たまたま体が動いて……」
「仮に偶然だろうと、たまたまだろうと結果として君は娘を助けてくれた。親として礼を言わせてくれ。本当にありがとう」
「……ッ。あ、当たり前のことしただけです」
「その当たり前ができる人間がどれだけ少ないか。君は娘の命の恩人だよ」
天音父の……誠二さんの言葉は一切の曇りなく俺の心に響いた。
──当たり前のことが出来る人間は少ない……か。確かにそうかもしれない。
だけど、命の恩人なら天音の方が……
「……命の恩人だなんて。救われたのは俺の方です」
あのまま、誰からも嫌われ一人ぼっちのままだったら……きっと、俺は今頃ここには居なかった。
天音が俺と友達になってくれて俺は救われたんだ。
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