第11話 変化する景色

 ピピピピッ!


 俺は普段聞くことの無い目覚ましの音で目を覚ました。


 ……朝か。こんなにぐっすり眠れたのはいつ以来だろう。


 俺は今までにないくらい晴れやかな気持ちで目を開けた。この気持ちの理由はわかっている。


 一人じゃないからだ。


 昨日、俺に友達が出来た。

 学園中の嫌われ者の俺に二人もの友達が。

 以前の、嫌われ者でない俺ならば友達が出来たところで特に何も思わなかっただろう。しかし、一人ぼっちだった今の俺には自分でも驚く程に嬉しい出来事だった。


 いつもなら嫌われていることがわかっている学校に、居場所がないあの場所に行くと思うと億劫で仕方なかった。

 それが、たった二人の友達が出来ただけで早く行きたいと思うようになっていた。


「──よし!準備するか!」




 勢いよくベッドから飛び起き、身支度を済ませ朝食の準備をしているとインターホンが鳴り響いた。


「……誰だ?朝からうちに用がある奴なんているか?」


 不思議に思いつつモニターを確認すると


「あ、おはよ!向坂くん!」

「向坂、おはー」

「……なんでいるんだ?」


 朝から俺の家の前に美少女二人(一人は自称だが)が立っていた。


「渚がさー、せっかく友達になったから一緒に学校行きたいーって言ったから迎えに来たのよ」

「ちょ、ちょっと!りさ!それは言わなくていいの!」

「すぐに準備するから少し待っててくれ」


 二人を待たせる訳にはいかない、と俺はモニターを切りバターを塗ったトーストを咥えて外に出た。


「お、出てきた……って、朝ご飯まだなんだったら言ってくれれば良かったのに」

「ひや、まはへるわへにはいはないほおほって(いや、待たせる訳にはいかないと思って)」


「はい?パン咥えてるから何言ってるか分かんないよ」


「そんな、私たちが勝手に来たんだから気にしなくていいのに」

「ひひよ、はへなはらひふ(いいよ、食べながら行く)」

「そう?それじゃあ行こうか」


「……え?なんで話通じてるの?」


 急いでトーストを食べ終えた俺は二人と通学路を歩いていた。

 昨日までは一人で周りの雑音を遮断し歩いていたこの道を今日は友達と歩いている。たったそれだけの事なのに、いつものこの道が明るく見える気がした。


「向坂くん、なんか顔色良くなったね」

「天音もそう思うか?」


 天音は俺の顔を覗きながら言った。


 今朝顔を洗ったとき、心做しか顔色が良くなっていた気はしていた。だが、俺の心持ちがそう見せているんだとばかり思っていた。


 ……やっぱり、自分が思ってた以上に辛かったんだな。それをこの二人が救ってくれた。


「なんか目のクマも薄くなった?」

「多分、それも全部昨日久しぶりにぐっすり眠れたからだと思う」

「なに?最近眠れてなかったの?」

「まぁ、何かと億劫だったからな。眠らなければ次の日にならないんじゃないかと思うと眠れなかったんだ」

「なるほどねー」

「でも、じゃあなんで眠れたの?」


「……友達が出来たから」


 正直に答えるのは恥ずかしかったが、自然と俺の口から言葉が漏れた。


「二人が俺と友達になってくれて……それで、嫌だった学校も二人に会えるならって嫌じゃなくなって、むしろ早く明日になって二人に会いたいって思ったらぐっすり眠れたんだ」


「へ、へぇー……なんか恥ずいんだけど。渚が余計なこと聞くからー!」

「は、恥ずかしくなんてないよ!わ、私は嬉しいもん!」


 俺らは三人とも顔を真っ赤にし下を向いた。


「こ、向坂って、こーいうこと恥ずかしげもなく言えるタイプだったの……?」

「……いや、穴があったら入りたい」

「……そ、そう」


 俺の素直過ぎた言葉のせいで学校に着くまでの間、俺らは互いに顔を合わせられず無言のまま歩いた。


「それじゃあ、また昼休みにお昼食べに来るね」

「それじゃ、向坂がんばー」

「──また昼休み」


 隣のクラスの二人は教室の前まで俺を送り自分の教室へと入って行った。


 学校までの道や廊下を歩く時いつもの冷たい視線は一切なかった。むしろ俺が二人と歩く光景に、皆一様に好奇の目を向けていた。


 だけど、今の俺には全くと言っていいほど気になるものではなかった。二人との時間が何より楽しく気にする暇がなかったから。


 一人ぼっちの時も散々歩いた道や廊下が、たった二人の友達と歩くだけで全く違った明るく綺麗な景色へと変わっていた。

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