真央
随分若い客だな、と思った。多分、真央と同じかほんの少し年上くらい。それくらいの客は、珍しい。真央の客層は大体30代から60代くらいだ。たまに真央より若いくらいの客が付くときもあったけれど、本当にたまにだ。真央は隣に立っているはずの貴子の方に視線をやったけれど、彼女は客とはホテルに行ったばかりだった。
「買いたいんだけど。だめなの?」
目の前に立った若い男は、不機嫌そうに低い声をしていた。どうやらこれは、俺の運命の相手ではない。内心でそう苦笑した真央は、前金で一万五千円を男に請求した。真央の値段は、気分で変わる。一万五千円は、安い方だった。男は素直に財布から札を二枚取出し、真央に渡した。真央はそれをジーンズのポケットにねじ込み、いつも使っている安ホテルに男を誘導した。
「ホテル代は、そっちもち。」
背が高いな、と思いながら男を見上げると、彼はそっけなく頷いた。男娼を買いに来たにしては、熱量のない態度だった。真央はなんとなく不安になった。こいつ、部屋に入るなり首絞めて来たりしないよな。
以前に何回か、そんなことはあった。その度に真央はなんとか生き延びてきたけれど、それは単に運が良かったにすぎないと、自分でも分かっていた。
常時なんとなく薄暗くて湿っぽいホテルの廊下を通り、いつも使っている一階の部屋に入る。いつも以上に神経を張りつめさせていたけれど、男がなにかしらの暴挙に出る様子はなかった。
少し安心した真央は、ベッドの隣で上着を脱いだ。
「シャワー、一緒に入る?」
男は黙って、ひとりでシャワールームに消えて行った。客とシャワーを浴びるのは嫌いだから、少し儲けたような気分になる。今度から一緒にシャワー浴びたがるやつには別料金とろうかな、と口の中で呟きつつ、本日の稼ぎを頭の中で勘定しながら、男が出てくるのを待つ。男は早々に出てきた。温かいシャワーを浴びたはずなのに、冷水を浴びたみたいな顔をしているな、と、真央は思う。性的な興奮なんて、一切感じていなさそうな顔をしていた。
「男買うの、はじめてでしょ。」
半分くらい確信しながら訊いてみると、男は表情一つ変えずに頷いた。もしかしたら、この男はのんけなのかもしれないな、と思ったけれど、たとえば友人同士の罰ゲームかなにかで男を買いにきたとか、そんな明るさも男からは感じ取れない。
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