第13話 配信開始!

「えー配信を観ているみんな! タローだよ!」

『タロー!』

『またMikeとカオリがいるー!』


 俺はリュックサックを置き、身軽な格好で頭部にカメラを装着していた。目の前に立つのはMikeとカオリの二人。既に両方とも真剣な顔つきで地底湖の方を眺めており、まさしく臨戦態勢だ。


「ってわけで、今日はあのデカワニを倒しに行こうかと思いまーす!」

『……え?』

『大丈夫!?』

『死んじゃうよ!?』


 いつもの調子でトークしているつもりなのだが、視聴者たちの反応は明らかに異なっている。無理もないことだろう。既に数百人の命を屠ったワニと対峙しようとしているのだからな。


「大丈夫です! 皆様もご存じ、強力なゲストがいまーす!」

「よお、Mikeだ。やってやるぜ!」

「カオリと申します。以後、お見知りおきを」


 Mikeは力強く剣を掲げ、カオリはぺこりと頭を下げた。豪快な大男と、可憐な弓使いの女。何から何まで対照的だが、二人の力を借りなければデカワニを倒すことなどまず出来ないのだ。


『でも本当に倒す気なの?』

『いくらMikeがいても難しいんじゃ……』

『だいたいそいつは一回食われてるじゃん!』


 不安な声で溢れかえるコメント欄。俺だってこの作戦が絶対に成功するとは思っていない。むしろ失敗のリスクの方が高いと思う。……が、どうせ進まなければ終わりなんだ。賭けてみる価値はあるはず。


「みんな落ち着いて、俺たちには作戦があるんだ。囮がワニを引きつけて、カオリさんには矢で片目を潰してもらう。その隙にMikeさんが止めを刺すんだ」

『なんかすごそう!』

『あのワニ、再生能力高そうだけど』

「まあまあ、心配するのは分かるけどさ。あの二人はすごい人たちだし、信じてもいいんじゃない?」


 とは言っても、Mikeやカオリの配信をそこまで観たことがあるわけではない。だが二人ともジョンコムのランキングでは俺よりかなり上位なんだ。上にいるということは、それに値する理由があるということ。だったらそれを信じるしかないだろう。


「Soldier boy、そろそろ始めようじゃねえか!」

「こっちもいつでもいいぞ、タロー殿!」


 二人は既に準備を終えているようだ。……残るのは「囮」のみ、か。俺は二人の前に出て、じっと地底湖の方を見る。


「あくまで作戦通りだ。状況が変われば俺が指示を出す」

「心配するな、任せておけって!」

「ああ、必ず射止めてみせる!」


 なんと心強い言葉だろうか。ちなみに二人には小型のヘッドセットを渡してあり、俺たちは互いに無線で意思疎通することが出来る。音声はそのまま配信にも流れるから、視聴者たちは臨場感たっぷりに楽しむことが出来るってわけだ。


「視聴者のみんな、始めるよ。瞬き禁止だ!」

『がんばれタロー!』

『いけー!』

『死なないでー!!』

『そういやタローは何すんの?』


 すうう、と大きく深呼吸した。ここから先は一瞬たりとも油断できない。生死をかけた戦いとなる。Mikeにカオリ、頼んだぞ……!


「作戦開始ッ!!」


 俺は地底湖に向かって猛然と走り出す。次の瞬間、デカワニが俺に食らいつかんとして――豪快な水しぶきをあげたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る