第7話

 帰りの電車のなか、重いバッグを床に下ろして僕はひとり考え込んでいた。


「ラカン・フリーズ、ラカン・フリーズ……。ああ、やめだ」


 僕は思考を放棄して、ポッケからスマホを取り出そうとしてやめた。僕はソフィアに「あまりよくない」と言われてから、テレビやスマホなどの電子機器を使うのを控えるようになった。ゲームの類いはやらないことにしている。どうして良くないのかはまだわからないが、とにかく良くないらしい。何故か教えてくれ。


『それは、真実から人を遠ざけるからだよ』

「え、真実?」

『ええ。真実に目が行かないようにしているの。他にも理由はあるけど、今はこれだけしか言えない』

「そうなんだ。真実ね。ラカン・フリーズと関係がある?」

『ないわね。それとこれとは別の問題よ』


 ソフィアとの会話でまたさっぱり訳が分からなくなった。頭の中にはいくつものアイデアで埋め尽くされていて、完全なる無秩序状態だった。僕が軽く立ち眩みを起こしそうになったとき、子供の声が聞こえた。


「ねぇねぇ、ママ! どうして俺は魔法使えないの?」


 その子はゲーム機で遊んでいた。隣に座るお母さんらしき女性がその質問に答える。


「それはね。ゲームの中の世界と、ここの世界は別だからだよ」

「うーん? じゃあ、この世界がゲームの世界だったら魔法は使えるの?」

「何言ってるのよ。この世界はゲームの世界なんかじゃないわ」


 その会話を聞いて、僕は閃いた。この世界がゲームの世界だったら、僕をプレーしている存在がいる。彼は上の存在なのではないか? 高次元とは、ゲームの外の世界のことではないか? その世界にいる存在を僕達は神や天使、霊と呼んでいるのではないか? 魂は上の僕にはあるが、この世界の僕にはないってことではないか?


「ソフィア! これであってる?」

「そうよ! つまり君の住む世界は?」

「僕の住む世界はゲームの世界……。仮想現実世界ってことか!」


 僕はついつい興奮してしまって、「仮想現実世界ってことか!」と声に出してしまった。他の乗客の視線が痛い。先の子どもに関しては、お母さんには「見ちゃだめよ」と言われている。そんなことはお構いなしにソフィアがいつもよりも高揚したテレパシーを送ってきた。


『おめでとう! やっと許可が降りたわ』

「許可って、この世界の真実を教えてくれるの?」

『ええ。先ずは改めて自己紹介をしますね。私は君たちの言うところの神です。ですが、普通の人間ですよ。いつもではないけど、あなたのことを見ています。守護するという表現の方が聞き馴染みがあるかもしれませんね』

「ええっと。色々質問があるんだけど、先ずはどうして今までは新しい情報を教えることが出来なかったの? それから教えてよ」

『それはですね。故意に目覚めさせてはだめという規約があるんです』

「目覚める? 規約?」

『はい。そもそも、あなたの住む世界はゲームの世界ですが、何故そのことを忘れていたと思いますか?』

「どうしてだろう? ゲームの不具合的な?」

『違います。敢えて忘れるようにプログラムされているのです。生まれる前、つまりゲーム開始前に自分で自分の人生のシナリオを決めます。後はそれを全く無の状態になって経験するのです。それが君の住む世界での誕生と人生の真実です』

「じゃあ、僕がこの世界はゲームの世界だって今気づいたのもシナリオ通りなの?」

『そんなことはありません。そもそも誰の人生のシナリオにも目覚めることは本来は無かったはずだった。だけど、君の住む世界の文明が発展してきたことで、それに気付き始める人が次々と現れ始めたのよ。だからあなたは今、シナリオから外れてきているわ』

「ということは僕以外にも悟っている人がいるんだね。そっか。僕はたどり着いたんだ!」






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