9-3 AIの返答

「仕組みは概ね理解した。それで幼稚園児くらいというAIは、本当にパーティクルの思考パターンを再現できているのかね」

 ディール大統領はロリンズをじっと見た。ロリンズは臆せずに答えた。

「わが国でパーティクルの思念を直接受けたのは、大統領とオースティンバーグ博士、ラハリマララ教授、それにシドニー・クロウ少佐の4人しかおりません。私は得られた数少ない情報をAIに学習させて仮想のパーティクルを構築しただけです。これが本当のパーティクルの思考なのかどうか、見たことも会ったこともないので分からないというのが本音です。ですが、少なくとも人類とは異なる思考パターンをいささかなりともシミュレートできていると確信しています。それはオースティンバーグ博士にも確認していただきました」

 そう言ってロリンズはオースティンバーグに視線を移した。博士は小さく頷いた。

「証言致します、大統領。ロリンズCEOのAIパーティクルは、私が彼らから受けている思念のパターンを、かなりの精度で言語化しており、完全ではないにせよシミュレートは成功しているのではないかと考えられます。大統領も同じ感想を持たれることでしょう」

「うむ」

「本来、言語は思考を形にしたものです。翻訳という作業は、その異なる言語同士の構文や意味を照らし合わせる作業です。今回ロリンズC E Oが取り組んだのは、思考そのものの言語化です。これまで全く接触のなかった非人類の思念を、言葉というフィルターのない状態から我々に理解できるよう言語化することは非常に困難です。ここまで辿り着いたのは奇跡的にですらあります」

 オースティンバーグはこう主張した。


「今、我々が彼らの思考や行動を予測しようとするなら、小学生か幼稚園児レベルのAIに頼るしかないのだな」

 ディール大統領はぽつりと言った。しかし、それはロリンズを非難する言葉ではなかった。

「現状で到達できるのはこのレベルまでです、大統領。しかし、インプットされる情報が増えれば、このAIは指数関数的に成長します」

「今後に期待しているよ。ところで、その幼稚園児は今、何と言っているのだ。それが知りたい」

 大統領の言葉は、会議室にいるメンバーが最も知りたいことだ。そこにいる者たちの唾を飲み込む音が聞こえるほど静まり返った中で、蒼ざめた顔つきのロリンズはおもむろに口を開いた。

「大統領、申し上げにくいのですが、AIが返してきた答えを一言で説明すると『奪う』ということです。いじめっ子がいじめられっ子から欲しいおもちゃを取り上げるのと同じです。彼らは地球や太陽系を領土として欲しがっている訳ではありません。そんなことは念頭にもないので、もちろん守る気もない。ペルセウス座超銀河団の侵攻に関しても極めてあいまいな反応でした」

「だが、実際、アフリカ連合に接触しているとの情報があるではないか」

 大統領は衝撃を受けた様子で、見るからに取り乱していた。

「我々が接触しているのは、本当におとめ座超銀河団の統括者なのですか」

 ロリンズの意外な質問は会議室の温度を下げた。

「それを言っては、議論が最初からやり直しだ」

「その通りです。ですが、これまで我々がパーティクルから得た情報は、一方的な彼らの言い分に過ぎません。誰も彼らの説明の真偽を実際に確認したものはいない。1万隻という大船団も実在するのかどうかは分かりません。大統領が連れ去られた技術は不明ですが、大統領がご覧になったという3D映像は地球の技術でも作成可能です。彼らの接触方法や移動方法から考えても、彼らは我々を軽く凌駕する強力なテクノロジーを有しているのは間違いありません。それは否定しません。もしかしたら大艦隊は本当に太陽系に向かっていて、我々が対処を誤れば、本当に地球は滅ぼされるかもしれない。ですが、彼らの行動とその背景にある意図は、これまで我々が考えていた以外のところにあるかもしれない。AIはそれを示唆しています」

「彼らの意図…」

「再度申し上げますが、幼稚園児並みのAIパーティクルが考えていることは、太陽系にある資源が欲しい、それだけです」

「私も同じような危惧を抱いています」

 オースティンバーグ博士が発言した。

「連日、彼らとの接触を重ねてきましたが、思念が漠然としているというだけでなく、彼らの伝えてくる事項があいまいで、肝心の部分をはぐらかされているような感覚に襲われることが増えています。それはラハリマララ教授も同意見です。彼らが何かを隠しているのは間違いありません」

 会議室を重い沈黙が支配した。しばらくの間、誰一人発言しようとするものはなかった。

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