2-1 会議室
言語学者のリチャード・オースティンバーグ博士が通された部屋は、ハイスクールの教室が2つ3つ合わさったような広さがあった。照明の弱い部屋は薄暗く、全体的に陰鬱なムードが漂っていた。しかし、部屋の中央にある円卓だけは、やや強めのライトがあたり、ぽっかりと闇に浮かんでいた。まるでスポットライトに照らされているかのようだった。十数席の大半は埋まっていた。そのうち数人はテレビのニュースで見た顔だった。
「オースティンバーグ博士、おいでいただき感謝致します」
博士が席につくや否や、握手を求めてきた男がいた。
「副大統領」
あいさつしてきたのは、ロナルド・クロスビー副大統領だった。無能の誉れ高いくせに、次期大統領の座を虎視眈々と狙っている野心家だと、ゴシップ紙に度々登場している政治家だ。
「さぞかし疑念を抱かれたことでしょう。しかし、今回は文字通りの緊急事態です。博士の知見がぜひとも必要だったのです。ご無礼をお許しください」
オースティンバーグは頷くしかなかった。今、ここで彼に返す言葉はない。
クロスビー副大統領は爽やかな笑顔を残して自席に戻った。しかし、その隣は空席のままだった。
<副大統領より後に入室する人物とは…>
博士の予感は的中した。
「大統領がおいでです」
円卓に就いていた全員が立ち上がった。
パリス・ディール大統領は恰幅の良い巨体を揺らしながら、ゆっくりとした歩みで、クロスビー副大統領の隣に進んだ。ネイビーのスーツに真っ赤なネクタイは、身に着けるのになかなか勇気がいりそうだ。
<こんな巨体に合うスーツは当然オーダーメイドなのだろうな>
博士はどうでも良いことを考えながら、大統領をぼんやりと眺めた。
「みなさん、ありがとう。ご着席を」
ディール大統領は軽く右手を挙げた後、そう言って自席に就いた。
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