ピティエの少女とメランコリーな少女
柳 一葉
ピティエの少女とメランコリーな少女
私たち変わっているのかな?
私はただ君が好きなだけ
そうでしょ?ねえ?
私はあなたが好き
あなたもそれを分かっていて試す行為
ただのバカだ
これからの未来怖くないさ
だって⋯⋯
「「一緒に溺れるんだから」」
───────
Loulou:可愛い子供。愛しい子。穏やかな大切な子
お嬢様は「秘密」だと云って、私の薬指にまず口付けをして、瓶にたっぷりと入っている液体をブラシで塗った。
乾ききれていない赤いエナメルをお嬢様は、口に持って絡み取る。
まるでじっくり煮詰めた木苺のジャムの様で、血の様だ。唇が染まる、染まりゆく。
「お嬢様、大丈夫なのですか?」
「大丈夫よ。これでこの天から誤って降ってきた小さく、そしてとても愛らしい天使に触れ合う事で死ねるなら、私は幸せよ」
バニラ色のトゥシューズが傾いた。
───────
四季縮まる春
調律が狂ったピアノを弾き私たちは踊る
血の滲むトゥシューズ
お似合いさ ルル
3
───────
樹海と云う感情に迷い込んで
こっちだよルル
このまま出口なんて無い世界のままでいたいよ
7
───────
「お嬢様訊きたい事があります。
答えがひとつではない問。
異なる価値を持ち対話が出来る。
現代に対して批判も育てる事も出来る。
そんな哲学を私は勉強したいです」
「そうなのね。でもルルはあんなの知るよりも私を識って。
君は本を読まなくてもいい。そうさ分からないままでいて」
お嬢様はコソッと言い、私の手を胸元に引き更にこう言った。
「この世界の汚さも」
───────
ルルの肌を撫でる
涙を流す
零れた雫はフランボワーズの香りがした
柔らかで初心な少女の味
繊細で芳醇な紅茶で嗜むかしら
10
───────
久しぶりに開けた部屋
埃被った本を撫でると
薄明かりに灯され周囲に煙る
本を開いてみる1枚の写真と
メッセージカードが挟まれてた
懐かしいです
またお会い出来ませんか
18
───────
落魄から目を背けていた
ずっと夢見がちでいたい
この幻が現実ならいいのに
そう口ずさみながら書いてる
直に黄昏が訪れる
27
───────
お嬢様どちらにいらっしゃるのですか。
本日何度目のカシュカシュをしているのでしょうか。
あなたはそうして私を誑かす。
私は机に置いてある日記帳が気になり
手に取り表紙をなぞった。
周囲を見渡してお嬢様の気配が無いのを
確認してページを開いてみる。
すると端に数字が記載されてる。
真剣に読み進めてみると
物音が響いて
私は急いで閉じた。
あのエナメルはそういう事なのですね。
共に刻みましょう。
あなたが幸せになる為に私は頑張ります。
2人で1つなのですから。
───────
本当に死ぬと感情が滑落したら
有名な哲学もかないやしない
今まで読んできた本も無駄よ
切ない心の動揺
39
───────
自分の精神病を拒むのか
それともこの繊細な心を受け入れるのか
このまま生きていても良いのだろうか
ただの言い訳に過ぎないだろうか
70
───────
フィナンシェ カヌレ コンフィチュール
「ルル、どれを食べてみたい?教えてくれたら、今度のバレエが休みの日に私が作るわ」
お嬢様はビー玉の様に目に光を映し
輝かせていた。
私はコンフィチュールを選んだ。
お嬢様はお菓子作りが得意で、月に2度程時間がある際はこうして作ってくれる。
私はあの時の、あの光景が忘れられなくてこれを機に選んだ。
ベリー系のコンフィチュールを、パンに塗る。
この行為を正にフラッシュバックと云うのでしょうか。
何度でも思い出させる。
強烈にこびりついてる記憶。
あの日記帳の事も。
───────
白昼夢に出かける2人
ルル、君のコンプレックスも抱きしめるよ
82
───────
布に色を付けてブラシで擦る愛
誰かの基準で作られた数字で騙されるなら
自分自身を
ひたすら自分で静かに知らんぷりして騙して
君なら出来るよ
ルル
90
───────
今更孤独が優しいの
この心地好い気持ち
君には教えたくない
113
───────
私は必至に切った。そうただ切る。そうそれだけの事。
ぬるいものが頬を流れる。ずっと流れる、止まらない。
鏡に映るのは私だけではなかった。
「ルル」
そう呼ぶあなた。
あなたが天国と言ったら此処は天国。地獄と言ったら地獄。ただそれだけの事。
結っていたリボンがスルりと解けた。
私の足元だけ照らして、全てに影が落ちない、落とせない。
太陽は影を落とさない、月は影を落とす。スポットライトも同じだ。
───────
甘えん坊で行儀悪い子
深爪で良い子
141
───────
愛の上書き保存目的の添加物
他には何もいらなかった
ずっとこのままでいれたらいいのにな
寂しい甘い瞳に映る君
160
───────
この部屋では飼ってたカナリアがよく死ぬの
一昨日も死んだ
何故かしら
緑色の壁がダメなのかしら
179
───────
桜に誘われ
故に
今日を愛すわ
いいえ
きっと後悔するわ
199
───────
君が何に囚われていか知っているよ
私は君より賢いんだから
だってあの問を訊いたんだから
ね そうでしょう?
204
───────
海より深い私の傷付いた心。
涙の雨でいつもより海は澱んでる。
いつだって、そう穏やかになった事は無かったのに。
この海はいつも綺麗とは呼べない。
振り返ると
「ねぇ、ルル綺麗だね」
そう言われて私の心はビロード色に変わり救われた。
───────
これが私たちの純愛だもの
好きは寂しさを含むの これであってる
下唇を上げる癖も大丈夫
227
───────
つられて引かれた後ろ髪
木の枝に絡まって動けない
スチール製の体
音は響くが心はどうだか
小指の赤い糸は切れ
それは腕に伝い解けた
240
───────
祈るように結んでは解いて結んでは説いての繰り返し
お母様私の行為は誤っているのでしょうか
私は幼き頃から蜜をも欲していました
268
───────
昼下がり、お嬢様は趣味の造花作りをしていた。
赤いカーネション、黄色いヒマワリ、青いバラと様々だ。
「ルル、私が何故造花を集めてるか知ってる?」
「ん〜何故でしょう。一生残るからでしょうか?」
「惜しいわ。それは息をせずとも生きてる。笑っていられるからよ。ただ花言葉も意味を成すのかは分からないけど。でも、だから私は好きなのかもしれない」
お嬢様はそれら造花に憧れてたかの様に、陶酔しながら私に述べた。私は少しでも意味を汲み取れる様にお使い致します。
「お嬢様」
───────
今日ルルに造花の事を話した
少し驚いてた顔もとても愛らしかった
造花の趣味はお母様から教わったもの
花の成す意味
ずっとベットの横に枯れずに咲いてる
いや、ただ開いてるだけなのかもしれない
でもその間は笑ってる
そう綺麗に笑ってる
息をして水を与え咲き誇る
生花とは違い
枯れると云う苦痛を知りたく無かったのかもしれない
297
───────
造花から何か香りが立ち込めた
近づくと腐れ渋いオレンジの匂いがした
急いで窓の外に投げた
でもどこか懐かしい
そうあの日を思い出した
あなたはもう
300
───────
ルル、君の涙が零れないように
頬に雨垂れを流さないように
私がお手本を見せてあげる
だからその時は思い出して
私のかわいい
か弱く困った天使
310
───────
愛というものは貪欲だ
性質を見誤って誤解している
孤立と絶望の経験をし私は生きてる
それら共にこれからも生きるのだろう
333
───────
懐疑点の鍵穴を覗く
悪口は富を失い貧しさを生みます
そうですよね
お母様
357
───────
ルル、君がこの日記帳を
こっそりと見ている事を
私が知らないとでも?
ううん、違うよ
怒ってなんかいないさ
だからこの続きも読んでほしい
伝えなきゃいけない事があって綴ってる
それに加えて少し私の秘密を教えるよ
あの赤いエナメルの事も
君がそれに囚われている事も
397
───────
「ねぇ、ルル」
「何でしょうか、お嬢様」
お嬢様が、バレエの稽古の昼休みに少しだけ抜け出して私を呼んだ。
「昨日の私の日記読んだ?」
「はい、つい拙い好奇心で読んでしまいました」
「別に隠して書いてた訳じゃないの。だから、気に病まないでいて」
お嬢様は優しく笑った。私を諭してくれた。
「ルル」
「はい」
風が少しばかり戦ぐ。
まとめていた髪が、空気を膨らまし靡く。髪の毛で、お嬢様の姿がぼんやりと霞んで見える。その姿は少し鼻の頭が赤く、そして含み笑いを捉えていた。
「ただ私たちは、純粋に愛し合っているだけなのにね」
「お嬢様」
私は顔を近づけてこう告げた
「2人だけの約束を作りましょう」
そうすると、お嬢様は声を出して笑った。
「ルル、本当に君と居ると飽きないわ」
共に開けてた窓から入ってくる光に、乱反射する髪の毛を風が攫っていく。
───────
愛というものは貪欲だ
性質を見誤って誤解している
孤立と絶望の経験をし私は生きてる
それら共にこれからも生きるのだろう
400
───────
「ルル、私が他に愛してる人が居るしたら君ならどうする?」
「え」
お嬢様何を、誓ったじゃないですか。
「私を殺せる?」
「お嬢様それは……」
振り子時計の針が揺れる、チクタクと音がする。1秒1秒心音の様に思える。
私がそんな大事なお役目務めてもよろしいのでしょうか。私はただ躰が2つに欠けた様に感じた。
「ルル、君になら殺されてもいいわ。殺意をひとつに集中して、動脈、静脈をどちらも貫いて。私を……ねぇ……」
お嬢様は、耳打ちしてこう告げた。
「助けて」
と
「お嬢様」
あなたは何に囚われているのですか。
私では力不足なのですか。
そうですか。
───────
悲嘆、絶望、消失
ドアのない迷路じゃない
誰も私の事なんて
何が足りないの
もしかして持ちすぎたの?
横に置いてある
エナメル カーネーション
廊下に出てあの部屋を訪ねる
何度繰り返せばいいのでしょうか
411
───────
好きじゃない人に
好きって言われるのが1番嫌なの
好きの裏は嫌いじゃないの
無関心
神様の匙投げ
428
───────
ありのままの私が愛されている訳では無い
気に入られただけ
全ての言葉に傷つく
なんて満ち足りてないのかしら
日々鬱屈で仕方がない
お母様何処にいらっしゃるのですか
439
───────
寝坊して朝食の支度が忙しくて大変だった。
フルーツを切ろうと思い、ナイフを手に取ったが少し指先も切れた。
血が流れた。
「あらっ」
お嬢様がキッチンにお見えになった。
私の冷たい手を握り、切れてる指先を口に含んだ。
ああ、またフラッシュバックだ。いや、今新たに脳が記録してる。これはなんだろうか。
「これで一応止まったかしら」
口から指を離す。
「ルル」
そう呼ばれ返事をする。
「以前言ってた秘密の事なんだけど、あのエナメル実は……」
私は驚いた。お嬢様は過去を思い出す度にあのエナメルを塗っていたのですか。
「ねっ、私っておかしいでしょ」
───────
ルルは幸福をもたらしてくれた
私のたった1人の天使
穏やかな天使
その一方で私は苦しまぎれに
考え出した手立てばかり思いつく
やはり私たちは結ばれてはいけないのかしら
477
───────
Miroir, mon beau miroir……
この世で1番かわいいのは誰?
この世で1番愛おしいのは誰?
この世で1番嘘つきなのは誰?
490
───────
お嬢様は自らオレンジを切りボンヌママンを作っていた。
「お嬢様良ければ私も一緒に作っても宜しいでしょうか?」
お嬢様は俯いてた。いや、真剣に目の前の事に集中していたから、聞こえていないのでしょうか。私はもう1度声をかける。
「あの、お嬢様?」
「あら。ルルじゃない。どうしたの?」
やはり聞こえてないみたいだった。お嬢様は髪をまとめ上げてエプロンを身に付けてた。ナイフの裁きは、私も見習う程慣れていた。手さばきがとても流れる様にシュルシュルと皮を剥いてた。それらを鍋に入れて、砂糖と一緒にコトコトと煮込んでいる。
「これはね私が作らないと、私の為にならないの。ごめんねルル」
「いえ、こちらこそすみません」
私は頭を下げて言葉を訂正した。
しかし、お嬢様自らの為。このボンヌママンは思い入れのある食材なのかもしれない。
私はキッチンを離れ、これから食べる事だと思いテーブルを拭いた。
「ルルありがとう。気を遣わせちゃって。もう少ししたら出来るから、一緒に食べましょう」
「こちらこそありがとうございます。はい、嬉しいです」
私は心踊りした。不意にお嬢様がトゥシューズを履いて、踊る姿を思い描いた。
私の大好きなお嬢様。私のマシェリ。
───────
人当たりが良いと言われるが
決してそうでは無い
誰も私の思想なんて見抜けない
だって私自身私が分からないのだから
今日だって死に物狂いで生きた
もう難しいのかもしれない
511
───────
私の帰る場所なんてあるのかしら
愛を求めてルルを夜中に呼んだ
ルルは私をやはり照らしてくれる
光を放ち喜びに変わり輝く
君に頼ってばかりじゃいけないよね
だから私はあの事を成し遂げるわ
537
───────
お母様から乳は与えられたが
蜜は与えられなかった
だから過去の私がいる
でも、見返りは求めていない
だってそれが今私なのだから
今でも愛して下さいますか
550
───────
お嬢様は、トゥシューズを履いてダンス・マカーブルを嗜み踊る。
その姿は骨が掠れる音がした。無価値だった日々がこうも呆気なく終わるのかしら。
私はひたすら、お嬢様の気が済むまでただ見つめる。今後も私が見守る。
───────
ルル、私はあの約束守れるわよ
もう直にその日が来るわ
愛の疑念を拭う覚悟
君は愛されて当然の天使
それに比べ私は
555
───────
瞳が弾いた
お嬢様が猟銃を手にして私に
「私の体内に流れている物はどんな味なのか覚えてて」
そう告げた瞬間 すごい破裂音がして
耳も目も塞いた
そうしたらお嬢様は倒れていた
呼びかけても応えてくれない
問いかけても答えてくれない
ベット、コワッフーズ
それら周りに飛び散った赤い液体
それらを指に絡め取り不意に思い出した
あの時を
私の薬指にまた小さなささくれが出来てた
知らないふりをしたけど
それでもお嬢様の味を識りたくて舐める
「嗚呼、甘い」
私は空いてる瓶にそれら赤い液体を
お嬢様を掬いとる
3分の2を占めた
「これで私もお嬢様の元へと辿り着けるかな」
お嬢様を1階へと連れて行く
白くて清潔な石鹸で洗いぬるま湯で流し
タオルで拭く
血まみれになった私の服
お眠り姫の私のマシェリをベットに誘い込む
私も一眠りしようと一緒に潜り込む
「ルル」
そう呼ばれた気がして目が覚めた
お嬢様は私と出会い過ごしてきた
555と云う日数
エンジェル・ナンバーを信じ自ら眠った
お嬢様との約束
それは
「互いの血の味を覚えておくこと」
そしてもうひとつ
「生き延びる日数を共に決めること」
そして私が待ち迎えていたのは
クリム、ペシェと云う名の死
───────
「ルル」
「はい、なんでしょうかお母様」
「あなたは私の天使」
「ふふふ嬉しいです」
───────
私は、鳥の声が気になってベットからお嬢様を残してこの部屋を出てゆく。
その声が聞こえたお嬢様の隣の部屋に向かう。
お嬢様のカナリアは確か亡くなったはずだけど。
と思いながらも足を進める。
そうすると籠に一羽の鳥がいた。
その正体、黄色い鳥はインコだった。
羽をばたつかせていた。
私は珍しくてまじまじと見つめていた。
そうしたらインコは
「ルル 死んで」
と喋った。
「「そうそれだけの事」」
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