第十四章 気流の支配者、風を纏う

敵対組織との抗争を終え、桐人は更なる高みを目指し、自身の力の探求を続けていた。未来を予知する力は、彼の戦闘能力を飛躍的に向上させたが、それはあくまでも受動的な力だった。桐人は、その力を能動的に、そしてより自由に操りたいと願っていた。


彼は、古武術の研究に加え、禅寺にこもり、座禅や瞑想を通して精神統一を図る日々を送っていた。滝に打たれ、冷水摩擦を行い、極限状態の中で精神と肉体を鍛え上げた。


ある満月の夜、桐人は、山奥の滝壺で座禅を組んでいた。周囲は静寂に包まれ、滝の音だけが響き渡っていた。桐人は、深く呼吸をし、意識を内へと集中させていった。


その時、彼の体内に、今まで感じたことのない、強いエネルギーが流れ込んできた。それは、まるで体の中を風が吹き抜けていくような感覚だった。桐人は、そのエネルギーに身を委ね、意識をさらに深く沈めていった。


すると、彼の意識の中に、風の流れが見えるようになった。木々の間を吹き抜ける風、滝壺に流れ込む風、そして、自身の周りを漂う微かな空気の流れ。全てが、鮮明に、そして立体的に見えた。


桐人は、ゆっくりと目を開けた。そして、無意識に手を前に突き出した。その瞬間、彼の周囲の空気が渦を巻き始めた。微かな風が起こり、次第に強さを増していく。そして、ついには、滝壺の水を巻き上げるほどの、強い風となった。


桐人は、自分の身に起きた変化に驚きを隠せなかった。彼は、合気道の奥義を極める中で、ついに風を操る力を手に入れたのだ。


その後、桐人は、風を操る力を自在に操るための修行を重ねた。彼は、風の流れを感じ、それを自身の意のままに操る訓練を繰り返した。風を起こすだけでなく、風の流れを変えたり、特定の場所に風を集めたり、様々な応用を試した。


ある日、桐人は、侠和会の事務所で、豪田と今後の活動について話し合っていた。その時、事務所に、緊急の連絡が入った。


「大変です!近隣の街で、大規模な火災が発生しました!」


連絡を受けた組員が、慌てて報告してきた。強風の影響で、火の手は瞬く間に広がり、多くの人々が避難を余儀なくされていた。


桐人は、「場所を教えろ」と言い、すぐに現場に向かうことを決意した。彼は、風を操る力を使って、火災を鎮火できるかもしれないと考えたのだ。


現場に到着すると、街は火の海と化していた。強風にあおられ、炎は勢いを増し、周囲の建物に燃え移っていた。消防隊も消火活動を行っていたが、強風のせいで思うように消火できずにいた。


桐人は、燃え盛る炎を見つめ、深く呼吸をした。そして、周囲の風の流れを感じ取った。彼は、風の流れを変え、炎の勢いを弱めるように、風を操り始めた。


最初は、微かな風の変化だったが、次第に、炎の勢いは弱まっていった。そして、桐人がさらに力を込めると、強風が吹き荒れ、炎を押し戻し始めた。


周囲の人々は、信じられない光景に、目を丸くしていた。風が、まるで意思を持っているかのように、炎を操っているのだ。


桐人の活躍により、火災は無事に鎮火された。多くの人々が、桐人に感謝の言葉を述べた。


この一件を通して、桐人は、風を操る力を、人々のために使うことを決意した。彼は、自身の力を、正義のために、そして、人々を守るために使うことを誓った。


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