第28話 「ピッ!の向こう側へ」
コンビニの商品、全部ピッ!ってしたい。
いや、正確には「全部ピッ!できたらどんな景色が見えるのか確かめたい」のだ。
たとえば、エベレストに登る登山家が「山の頂上を踏破すること」にロマンを感じるように、マラソンランナーが「ゴールテープを切る瞬間」にすべてをかけるように、私には「コンビニの商品をすべてスキャンし終えたその先」に、何か壮大なものが広がっている気がしてならない。
でも、毎回途中で店長に止められる。
前回も「説教の時間が倍になる」とかいう謎の罰則をちらつかせてきて、結局全部スキャンできなかった。
……納得いかない。
「ねえ、灯里ちゃん」
私は深夜のバックルームで、灯里ちゃんに話しかけた。
「何?」
「私さ、やっぱりやりたいんだよね」
「……は?」
灯里ちゃんが顔を上げた。
「全部ピッ!してみたい」
「……まだ諦めてないの?」
「うん」
「なんでそこまで執着すんの?そもそもそれ、レジの在庫管理とは関係ないって店長にバラされてたやん」
「関係あるかどうかじゃない。私はこの手で、コンビニの商品をすべてスキャンするという伝説を作りたいの」
灯里は目を閉じ、深く息を吸った。
そして、ものすごく疲れた顔で私を見つめる。
「美羽ちゃん……もうちょい他に夢、ないん?」
あるよ。でもこれは夢というより、使命なのだ。
「もう一度、挑戦する……?」
私はそっと灯里に問いかける。
「せえへんわ!! なんで私まで巻き込む気満々なんよ!」
「だって一人じゃ無理だもん」
「知るか!あのね美羽ちゃん。もう説教されたくないんよ私は!わかる!?私はなにもしてないのに、むしろ止めてたのに深夜2時に店長の愚痴付き説教を受ける苦しみが!」
灯里ちゃんは力強く拳を握りしめた。
しかし、その必死の抵抗は私の心には響かない。
「灯里ちゃん、これは革命なんだよ」
「コンビニのスキャン革命て、意味わからんすぎるやろ!」
「でも考えてみて?」
私は灯里ちゃんの肩をそっと叩いた。
「今、全国のコンビニで”全部ピッ!“に成功した者はいないはず……もし達成できたら、それはもう”偉業”なんじゃない?」
「そんな偉業いらん! いや、むしろ店長が全国のコンビニオーナー会議みたいなんに呼ばれて、『うちのバイトが前代未聞のことをしまして……』とか報告させられる可能性まであるやん!」
うん、それはちょっと面白いかも。
「まあでも、また店長に見つかると面倒だしなあ」
「せやろ!? もうこの話は終わり!」
そう言って、灯里は意気揚々と立ち上がる。
しかし私は、密かに次の作戦を練っていた。
——次こそ、すべてをスキャンする。
絶対に。
(つづく)
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