第21話 「モテ期、コンビニにて。」
夜10時過ぎ。
深夜シフトにはまだ早いけれど、居酒屋帰りの酔っ払い客がちらほら現れ始める時間帯。
私はレジの前に立ち、淡々と仕事をこなしていた。
「おい、ねえちゃん、可愛いねえ!」
突然の場違いな大声に、私は思わずビクッとした。
レジにやってきたのは、30代半ばくらいの男性二人組。
スーツのネクタイは緩み、手には缶チューハイ。
いかにも「今から家飲み2次会やります」なテンションだ。
「いやいや、マジで可愛いっすよ!」
「このコンビニのアイドルって感じ?」
どこに目をつけて言っているのか分からないが、酔っ払いの言うことに正しさを求めても仕方がない。
「ありがとうございます、お会計〇〇円です」
「そっけないな〜、LINEとかやってないの?」
「お会計〇〇円です」
「……マジでそっけない!」
それはそうだ。私は仕事中だし、そもそもナンパに付き合う義理もない。
「へへ、そっけないのもいいね!」
なぜポジティブに解釈した!?
彼らがようやく退店し、私は心の中で大きくため息をついた。
だが、今日はこれで終わらなかった。
その10分後、今度は大学生らしき二人組が来店。
カゴの中身はカップ麺とポテチ、そしてエナジードリンク。
いかにも「夜更かし決定!」みたいな買い物リストだ。
「すみません、これ温めお願いします!」
「はい、かしこまりました」
レンジにおにぎりを入れ、ピッとボタンを押す。
「……てか、バイトの人めっちゃ可愛くね?」
え?また??
「ほんとだ!バイト終わったら飲み行かない?」
「おにぎり温め中です」
「……え?」
「おにぎり、温め中です」
「いやいや、そうじゃなくて!」
知ってる。
でも、おにぎりの進捗状況を伝えるのが私の仕事だ。
「えー、冷たーい!」
冷たくて結構。
むしろおにぎりがホカホカになってくれたらそれでいい。
この日はどうやら「岩城灯里モテ日」らしい。
なぜか分からないが、次から次へと「可愛いですね」と言われる。
そして極めつけは――
「お嬢ちゃん、最近の若い子の中では可愛い方じゃな」
レジに並んでいたご年配の男性にまで言われた。
「ありがとうございます、お会計〇〇円です」
「ワシが若かったら惚れておったな!」
「へぇー、そうなんですね!〇〇円になります!」
「昔はモテたんじゃよ、ワシも。いや、ほんとに」
「へぇー、そうなんですね!〇〇円になります!」
私はさっきから同じ言葉を繰り返している気がするが、それで接客が成立しているなら問題ない。
ようやくおじいさんが退店し、店の中が静かになった瞬間――
「……なあ、灯里ちゃん」
横でずっとこの一連の流れを見ていた安藤さんが、じっと私を見つめていた。
「今日はなんか……すごい日だね」
「私が一番そう思ってますよ」
「もしかしてさ、モテ期?」
「コンビニのレジでモテ期が来ても、ちっとも嬉しくないです」
その日、私は「おでんの大根が小さい」とか「ポイントカードはあるか」とか、そういう普通のクレームが恋しくなった。
(つづく)
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