第14話 「コンビニバイトに休息なし」


金曜日の夕暮れ時、店内は静かだった。

私はレジ前で腕を組み、ぼーっと棚を眺めている。


「……暇だねぇ」


隣では美羽ちゃんが、スキャナーをカチカチ鳴らしながら、リズムを刻んでいる。


「客、全然来ないね。こんなにヒマなの珍しくない?」


「ね~。めっちゃ平和」


2人してゆるーく会話しながら、私は時計をチラリと見る。

この調子なら、シフト終わるまで何事もなく終われそう……。


「今日は客少なくて楽だね〜」


美羽ちゃんが、のんびりとした声で言った、その瞬間。


ガラララララッ!!!!


自動ドアが全開になり、まるで津波のように人の群れが押し寄せてきた。


「「あっ……」」


やってしまった。

この世で最も言ってはいけない“フラグワード”を……。


「うわぁぁぁぁぁ!!やっぱり言うんじゃなかった!!!!」


私の叫びは、次々と流れ込む客のざわめきにかき消された。



レジ3:1万円札でガム1個を買おうとする若者

まず私のレジには、おじいちゃん。

「ポイントカードお持ちですか?」


「……持ってるよ、ええと……」


おじいちゃん、ポケットからポイントカードじゃなくて診察券を出してきた。


「あ、それ病院のやつですね!!」


「ああ、すまんすまん、こっちかな……」


(それも病院のやつですね!!!)



私が心の中で叫んでいると、隣のレジでは美羽がメルペイ迷子のおじさんと戦っていた。


「メルペイってどうやるの?」


「えっと、アプリ開いて、コード表示してもらえれば」


「アプリ? どこ?」


「……スマホ出してもらっていいですか?」


おじさん、なぜかガラケーを取り出す。


(えっ!?ガラケー!?!?)


美羽ちゃんの心の叫びが聞こえた気がした。


さらに、私の列には若者が。


「え、崩せないんすか?」


「いや、できるんですけど、できれば千円札とかないですか??」


「うーん……あ、でも万札しかないっす」


(知ってる!!! だから言ってる!!!)



レジの混雑の中で、私はホットスナックコーナーに目を配る。

案の定、唐揚げやらアメリカンドッグやらの注文が私のレジでも美羽ちゃんのレジでも怒涛のように入っている。


「えーっと……唐揚げ3つ、フランク2本、ポテト5つ……って5つ!?」


「すぐ食べるんで、揚げたてください!」


「すみません、今あるのでよければ……」


「いや、揚げたてがいいです!!」


くそぉぉ……!!!

絶対揚げるのに時間かかってイライラするやつ!!!


仕方なくフライヤーのスイッチを入れ、油がじゅわっと音を立てる。


「すみません、ポテト大盛りできます?」


「できません!!」


思わずキッパリ答えてしまった。


「じゃあポテト5つで……」


「それ、結局大盛りと一緒じゃないですか!!??」



奥のイートインコーナーでは、カップラーメンにお湯を入れすぎて、爆発させる客が。


地獄である。


もはや、どこをどうフォローすればいいのか分からない。


「灯里ちゃん、もう無理、限界……」


レジでヘトヘトの美羽ちゃんが、魂の抜けた目でこちらを見た。


「分かる……もう帰りたい……」


「うおおお、こんなに人がいるのにセルフレジ使う人ゼロかよ!!」


安藤さんの悲痛な叫びが響く。


そして、地獄のような30分が経過。

客の波が去った店内は、嵐の後の静けさを取り戻していた。


「……生きてる?」


美羽ちゃんがぐったりとカウンターに寄りかかる。


「……かろうじて……」


私は床にへたり込んでいた。


そのとき、ふと入り口を見ると、店長がタバコ片手に戻ってくる。


「おー、おつかれ。なんか騒がしかったな」


「店長……助けてくれなかったんですね……」


「おれ、休憩だったし?」


(おれ、休憩だったし? じゃないが!?!?)


「……もう二度と言わない……絶対に……」


私は静かに誓った。

「今日は客少なくて楽だね〜」なんて、二度と言うものか……!!


(つづく)

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