第5話 四条氷桜
剣道部の部室に顔を出す前に保健室に顔を出す
保健室には四条氷桜という養護教諭がいる
大学を卒業したばかりの23歳で、今年の春に赴任してきた
艶のいい黒髪を長く伸ばした大和撫子風な容姿の美人で、峰不二子顔負けのグラマラスな肉体を白衣の下に隠しているということは、あっという間に、学校中に知れ渡り、保健室に男子生徒と、男性教師の行列ができたほどだ
年が近いのもあって、生徒からは下の名前である『氷桜先生』と呼ばれている
この先生と俺は何の因果か、世間でいう恋人同士として付き合っている
もちろん、このことは妹の真綾と悪友のメガネしか知らない
生徒と教師
世間で知られれば、もちろん、問題となり、彼女は間違いなくクビになるだろう
だからといって付き合いだして、この3ヶ月間、手を握る以上のことはしていない
氷桜先生は神社の神職の生まれで、お堅く育てられてきたそうで、男と付き合ったのは俺が初めてらしい
俺も、これまで剣道一筋で女に興味はなかったから、こういう形で女と付き合ったことはない
二人とも付き合ったはいいものの、どうしたらいいのかわからないのだ
友人たちはどいつもこいつも、女に縁がない奴らばかりなので、聞けないし、聞いたら女ができたかと聞かれるのは必定
休日にこっそり、映画館に行くか、保健室でこういう風にお茶をして適当に喋っている
「羊羹、食べる?兄さんが買ってきてくれたのよ」
「先生のお兄さんって、あの、お坊さんの?」
「そうよ。神職の家なのに、なぜか仏教に目覚めちゃって、高野山で修行して、今は旅の僧侶をしているの。おかしいわよね」
フフッと彼女は笑う
保健室のテーブルに小皿に置かれた抹茶味の羊羹が差し出された
「そういえば、先生も巫女さん何ですよね」
「そんな大したものではないけど、父の仕事を手伝う時は、巫女の格好をして儀式をしたり、おみくじを売ったりしているわ」
「先生の巫女さん姿見て見たいっす!」
氷桜先生の巫女姿を想像した
プロポーションのいい体を、あの赤と白の清楚な巫女の着物に包まれた姿を想像する
たわわに揺れるあの胸を、あの汚れのない白い布が包み込むのだ
着物は下着をつけないというから、着物の隙間からスイカのような大きさの白い乳房が見えてしまうのではないか?
いやいや、俺は一体何を考えているんだ
頭を振って邪な考えを消そうとする
だが、俺は彼女の巫女姿を見たいと同時に、他の男に見てほしくないと独占欲がムクムクと心の中で育ってゆくのを感じた
「恥ずかしいわね。君の前で巫女の格好をするのは」
「でも、俺以外の人には見てほしくないかな。絶対、綺麗だから」
「もう、大人をからかうんじゃあありません」
嬉しさと恥ずかしさに彼女は顔を赤くして、その顔を俺に見せないように横を向きながら無造作に手を紅茶の入ったカップに伸ばす
よく、見ていなかったのだろう
そのカップは俺のカップであり、俺と彼女の手が触れた
「あ」
「あっ」
手が触れて俺たちは目を合わせる
今は、放課後
保健室には誰もいない
沈黙が続く中、口を最初に開いたのは氷桜先生の方からだった
「も、もうすぐ、卒業よね」
「そうですね。卒業したら、一緒に東京まで来てくれますか?」
「ええ、東京の私立学校で、丁度、養護教諭の空きがあったの。そこの理事長の娘が私の友達で春からそこに通えるように話をしているところよ」
「よかった!春からも先生と一緒にいられるんだ」
「嬉しい?」
彼女は女神のような微笑みを浮かべながら尋ねた
俺は大きくうなづく
「もちろんです!」
「私もよ」
俺は彼女の薄いピンクの口紅を塗った艶っぽい唇を見つめていた
彼女も俺の顔を見つめている
俺は彼女の体を抱き寄せて唇と唇を重ねた
初めての口付けだった
ただ唇と唇をくっつけただけの幼稚な口付けなのに、激しくなる心臓の音が止まらない
願わくば、この時間が永遠に続きてほしい
「えっ」
突然、氷桜先生が俺の体から離れて立ち上がった
そして、慌てたように俺の後ろにある窓まで歩いてゆく
「そんな、あり得ない」
窓を開けて外を見回す
心なしか、表情は青い
何か幽霊のような見てはいけないものを見たような表情だ
「どうしたんですか」
「いたのよ」
彼女は怯えた声で呟いた
「え?」
何がいたのだ?
「髪の長い女の子が窓からこっちを見ていたの」
あり得ねえ、だってこの保健室は・・・
「その窓からですか、だって保健室は、3階ですよ」
俺も窓から外を見て見た
当然、誰もいない
そもそも、足をかけるところもないのだ
その女は飛んできたとでもいうのか?
だが髪の長い女には、俺に心当たりがあった
ーーその女、殺しても、私は真守と一緒になるから
あの言葉が脳の中でリプレイされる
平坂黄泉が俺たちの口付けを窓から見ていたのだ
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