Ⅶー③ 神池の掬い
天地が荒れ狂う。
迅雷が轟く。
暴風雨が吹き荒れる。
ごぼごぼっ……、
神池が泡立つ。
空上に。
ふわり、
そこに腰掛けるふたりの王。
未來王と魔王。
彼らの膝の上には分厚い書物。
『裁きの書』が置かれている。
この書物には。
三世(前世・現世・来世)のすべてが記されている。
未來王は薄く微笑み
魔王は冷めた瞳で足を組む。
彼らの左手にはオーロラペンが握られている。
神池の空上。
二頭の神霊獣が並ぶ。
呂色九頭龍神・コン太は神池を
金獅子霊獣・ライアンは鯉の群れを威嚇する。
キラリ!
判別魔眼が光る。
二頭は金色の閃光を放射する。
闇深い池の最深部。
隅々までを照らした。
バシャッ!
ブーブーが池に飛び込んだ。
ひょこっ、
水面に顔を出す。
おいで……、おいで……、
幻妖霊獣を手招きする。
ファフニールドラゴン・ファフ。
ブラックユニサス・すずめ。
クロヒョウ霊獣・グウ。
幻妖霊獣・三体が神池に飛び込んだ。
するり、するり……、
ブーブーが先導する。
池の最深部、
奥底まで
魔導師4人衆は謳う。
薄暗い黄昏のなかで
闇に住まう虚偽が大地を潤歩し、
光と
民衆は実在せぬものの神格化を求め、
乞食は運命のめぐみを願う。
自らの邪なたくらみを成就するために……。
中傷が国中にひろがり、
つまらぬ
そして人びとは、
女々しい偽りの叫びをはりあげて、
嵐の海を乗り越えようと願っている。
みだりに外の世界に救いを求める。
おお、おんみ、宣言せよ!
幻想は永遠の真理ではない、と。
おんみの惜しみなき献身が、
わたしの心を善なるものへと、
高貴なものへと、
高めてくれますように。
(詩聖・タゴール)
ザバアアァッ……!
池の底から。
ブーブーと霊獣たちが戻ってきた。
即座に。
ふたりの王の尊前に
コロン、コロンコロン……、
コロンッ……
数百個の眼球を積み上げた。
それは
不浄な眼球……。
『
ぎゃあっぎゃあっ!
恨み節、愚痴を吐き出す。
身勝手な言い分を主張する。
《なぜ自分がこんな目にあうのか分からない!
自分はなにひとつ悪くない!
すべては時代のせいだ、
環境のせいだ、
親のせいだ、
愚かな連中のせいだ!
来世はもっとうまくやる!
我こそが人類の『神』となる……!》
未來王・トレジャンは静黙して耳を傾ける。
彼らの『帰結』を思案する。
魔王・ディスは首を横に振る。
不快げに眉をひそめた。
魔導師4人衆は真底から
呆れて肩をすぼめた。
霊獣たちは敵意を剝き出しにする。
低く
未來王は幻滅する。
「なぜですか?
何故、あなた
もう、お忘れですか?
改悛の情、
……実に残念です。
それでは、おまかせします」
未來王の言葉に。
魔導師4人衆は即座に反応する。
「
グシャリグニャリ……、
グシャリッ……!
醜悪な
ひとかたまりに丸めた。
ポイッ、
目玉の
シュパンッ、
ブーブーがキャッチした。
ブーブーはせせら笑う。
「ケケケッ!
おまかせあれ!」
ぽーんっ!
ゴオオオォォッ……!
強烈な逆引力に吸い寄せられていく。
スポッ……!
のみ込まれた。
その瞬間。
巨大ブラックホールは霧散して消えた。
神池の上空。
嵐のような暴風が吹き荒れている。
夜陰の海は不気味に黒い渦を巻く。
キラリッ!
さあ、メインに突入だ。
魔導師4人衆は謳う。
ギタンジャリ82
主よ、時はあなたの御手のなかでは無限です。
あなたの分秒を数えられる者はおりません。
昼と夜が過ぎ去り、
時代は花のように咲いては
それでもあなたは、
待つことを知っておいでです。
あなたの
一本の小さな野花をも完成させます。
わたしたちには余分な時間はありません。
そして時間がないために、
機会を奪わねばなりません。
貧しいがために、
ぐずぐずしてはいられません。
こうして、口やかましく求める人ごとに
時間を割いているうちに時は過ぎ去り、
あなたの祭壇にはいつまでたっても供物はあがらない。
夕暮れ、
わたしはあなたの門が閉まりはしないかと急ぎます。
それでも来てみると、
まだ
(詩聖・タゴール)
魔王・ディスは謳う。
わたしの心のこの扉が
いつも閉ざしたままであったとしても、
扉を破って、
わたしの生命のなかに入って来てください。
主よ、
けっしてそのまま引きかえしては行かないでください。
いつの日かこの竪琴の
あなたの愛しい御名を奏でなくなったとしても、
後生ですから、
主よ、
けっしてそのまま引きかえしては行かないでください。
あなたがお呼びになるときに
わたしの深い
わたしを目覚めさせてください。
主よ、
けっしてそのまま引きかえしては行かないでください。
いつの日にか、あなたの玉座に
ほかの誰かをよろこび迎え、坐らせたとしても、
おお、わが生ける時の王子よ!
主よ、
けっしてそのまま引きかえしては行かないでください、
主よ!
(詩聖・タゴール)
ブーブーと魔神たちは歌う。
マイケル・ジャクソン『アース・ソング』を歌う。
♪
泣いている地球を 泣いている岸辺を
破壊した俺たちはどうなる?
あの人は…………?
神池の鯉が跳ねる。
天に向かって飛び跳ねる。
跳ねるっ! 跳ねるっ!
ホザンナ、ホザンナ……!
ホザンナ、ホザンナッ……!
掬ってくれ、掬ってくれ……!
掬ってくれ、掬ってくれっ……!
ブゥンッ! ブゥンッ!
ブゥンッ! ブゥンッ!
魔導師四人衆は巨大な網を振り回す。
高く飛び上がった『
巨大な
そうして尊前にさし出す。
ピチッ、ピチッ!
玉座の前で鯉は暴れる。
ふたりの王は右の
シュウウウウゥゥ……!
鯉は
ポーンッ!
魔導師四人衆は口角を上げる。
金の穴・黄泉トンネル向けて。
金の穴の入り口。
待ち受けるのは働き者。
小人超人・『ネフィルム』だ。
天使と悪魔のハーフである。
ネフィルムの今宵の任務……。
次々に
……まだ歌は終わっていない。
魔導師四人衆は網を振る。
右へ左へ
天高く飛んだ鯉たちを掬い上げる。
そうして尊前に差し出す。
王の魔力で鯉は
そのピーナッツを黄泉トンネルへと投げ入れる。
入り口でネフィルムがキャッチする。
せっせと
この作業をくり返す。
シン…………、
ブーブーと魔神たちの歌が終わった……。
鯉たちは消沈する。
絶望の涙にくれる。
……
浮かばれなかった……
掬いの時間、終了してしまった……
今宵のチャンス、逃してしまった……
神々、魔神は謳う。
つねにあなたの望みに仕えながら、
わたしをして
あなたの扉口にあらしめよ。
そしてあなたのお召しを受けては
あなたの王国をめぐらしめたまえ。
わたしの生命を浪費しつくして
ぼろぼろに破れしむるな。
かの疑惑どもに
わたしを取り巻かしむるな。
あれは気散じの埃である。
わたしをして
多くのものを
さまざまの小径を追わしむるな。
多数者のくびきに
わたしの胸を曲げしめざれ。
あなたの召使いたることの誇りと勇気に、
わたしの頭を高くもたげしめよ。
(詩聖・タゴール)
ひゅうう……、
まだ風は止んでいない。
黄泉トンネル……、
まだ消えていない。
どうやら。
今宵の神池の掬い。
まだ終わっていない…………。
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