Ⅵー① ミカエルとルシファー

 ほんの幾年いくとせ前。

 とある日のおはなし。


 ミカエルは嘆く。

 永きに渡る歳月。

 軍神ウォーヒーローたたえられてきた。

 大天使アークエンジェル崇拝すうはいされてきた。

 そうして移ろう時代のなかに、どれほどの血の海を見てきたことか。

 歴史を紐解ひもとけば、我欲のための覇権闘争あらそいばかり。

 人間同士が憎み合い、殺し合う。

 追い詰めて、捕らえて、拷問惨殺ざんさつする。

 親玉ボス恫喝どうかつ軍人ソルジャー怒号どごう

 子どもたちの号哭ごうこく。女たちの悲鳴。

 焦土しょうどと化した街。灰色の瓦礫がれき

 惨憺さんたんたる死体の山。泣き崩れる人びと。

 これが天国ヘヴン? これが天のおぼし?

 戦争の勝敗に『神の采配』など、皆無だというのに…………

 


 ルシファーは嘆く。

 永きに渡る歳月。

 『悪の権化ごんげ』だとおそれられてきた。

 『魔王悪魔デンジャラス』だとみ嫌われてきた。

 振り返れば。

 理不尽で不当なアサインメント(割り振り)だった。

 空恐ろしいほど、痛哭つうこくで屈辱的な日々だった。

 もしも人類が『不死の肉体』を得ていたならば、地球は腐敗消滅していた。

 増え過ぎた人類によって窒息し、とうの昔に滅びていた。

 今日こんにちまで地球が現存できたのは冥界インフェルノのはたらきの賜物だ。

 もしも六世界に霊界地獄ヘルがなかったら、しかばねの行き場所はない。

 再生不能となり、転生の可能性は皆無だったというのに…………



 未來王は提案する。

 「ミカエル。そしてルシファー。おふたりに選択権を与えます。

 選択肢ひとつめは、今日こんにちまでの立場を完全交換する『とりかえっこ』プランです。

 ミカエルを魔界ソーサリーの王に、ルシファーを神界ゴッドの王に任命いたします。

 選択肢ふたつめは、おふたりが『合成合体ミックス』し、となるプランです。

 嵌合体かんごうたいとして生まれ変わった魔界ソーサリー指揮統括しきをお任せします。

 その場合、神界ゴッド魔導師ウィザード4人衆が指揮統括します。

 どちらのプランを選択しますか?」



 ミカエルとルシファーのは即断即決した。

 迷うことなく『合成合体ミックス』を選択した。

 未來王は首肯しゅこうする。

 ふたりをやさしく包みこんだ。


 ピッカアアアァッ…………!

 くらむような閃光が放たれた。

 瞬きして目を凝らす。

 そこには鉛色なまりいろの髪と瞳を有したが立っていた。

 大天使・ミカエル、堕天使・ルシファーは合成合体ミックスした。

 新時代に於いて、ハイブリッド型メタフィジカル・全能善神ゴッドに生まれ変わった。

 それは魔導師4人衆に負けず劣らず、猛烈に美しい男だった。



 あれは手段の純粋性。それは適切で調和のとれた結合。

 これは…………

 (ガンディーのことば)

 


 未來王は微笑む。

 「今日からあなたの名は『魔王・ディス』です。

 ディスの名は、ディスリスペクト(軽視・軽蔑)の意、ではありません。

 ディスカバリー(発見・見出す)の意、です。 

 これよりは、魔界の神々と幻妖霊獣の指揮統括をお願いいたします。

 そして不遇な死を遂げた者たちをとむらい、肉体再生させてください。

 ゆるせぬ罪を犯した者たちにを与えてください。

 4人衆と輪廻転生リーインカーネイション舵取かじとりをお願いします。

 ともに相応世界を目指してゆきましょう」



 魔王・ディスは跪拝きはいする。そして、問う。

 「親愛なる未來王、ネオ・トレジャンよ! 

 わたしは、あなたの弟子になれたのでしょうか?

 魔導師4人衆と同様、あなたの友人になれたのでしょうか?」



 未來王は深く頷く。

 「はい、もちろんです。ディスは我らの友であり、家族です。

 この先の未來は図抜けた仲間たちと共にあります。

 ですから、もう孤独ではありませんよ?

 そしてあなたは、、お願いします。

 本来の自分を偽って、取りつくろう必要はありません。

 手前勝手に創作された『最悪な役割』を演じる理由もありません。

 自己犠牲の精神は、たいして美しくないのです。

 貴男あなたは、貴女あなたでいいのです……」



 魔王・ディスは大きく目を見開いた。

 「本来の姿? さらけ出していいの? ホントに……?

 ンフッ! ンフフフフフ……ッ! 

 嗚呼アアッ、最高っ! 

 偽装せずに、自分らしく居られるって幸せね?

 それじゃあ、トレジャン! これからよろしくね?」

 ディスは鉛色なまりいろの長い髪をかき上げて、妖艶ようえんに笑う。

 そしてそっと、涙をぬぐった。



 未來王はうたう。


 ギタンジャリ58

 歓びの調べをことごとく わたしの最後の歌にとりいれよう。

 歓びは大地を さんざめく草たちで溢れさせる。

 歓びは双子の兄弟を、生と死を、広い世界で踊らせる。

 歓びは嵐とともに吹き来たり、

 高らかな笑いであらゆる生命を揺り起こす。

 歓びは花咲く苦悩の紅い蓮華の上で涙をたたえて静かに坐る。

 そして歓びは、いっさいの持ち物を塵の中に投げ捨てて

 黙して語らない。

 (詩聖・タゴール)



 魔王・ディスは讃え、謳う。

 

 おんみの無量の心のうち深くに 遥か沈潜ちんせんすればするほど

 どこにも悲しみや死の影はなく どこにも別離の跡は見あたらない。

 死は、死の姿すがたをとり、悲しみは、悲しみの墓穴となる。

 おんみのもとを離れて 自我のほうへと目を向けるときに。

 おお、全きひとよ、この世のすべては ひたすら おんみの足もとにある。

 失せはせぬかとの恐怖、それはただわたしだけのもの。

 そのためにわたしは 昼も夜も泣き叫ぶのだ。

 わたしの心の疲れも 世の重荷も 一瞬にして消え失せる。

 おんみの実在を わたしの生命いのちの中心に迎えることができるとき。


 いま一度わたしは目を覚ます。

 夜が終わりに近づき世界中の花びらがひらく。

 そしてこれはかぎりないおどろきである。

 おびただしい島々が名づけられない深淵しんえんのなかに沈んだ。

 星々はその光の最後のきらめきを惜しんでいた。

 数知れない時代が そのすべての責荷を失った。

 世界の征服者たちは、

 一つの名前のかげに おぼろげな伝説の中に消えてしまった。

 偉大な国々は、

 鎮められない土ぼこりの 飢えへのささやかな供え物として勝利の塔を建てた。

 この溶けていく見捨てられた群衆のなかで、私の額は光の清めを受ける。

 そしてこれはかぎりないおどろきである。

 (詩聖・タゴール)



 未來王は謳う。


 僕は嬉しい、おまえがなずむ悲しみをたたえて

 ぼくを待つことがないというのは。

 ぼくの眼に涙を運んでくるのは、ただこの夜の魔力と、

 自らの絶望的な調子に驚いたぼくのわかれの言葉にすぎない。

 あらゆる星がわたしのうちに輝いているのをわたしは感じる。

 世界は洪水のようにわたしの生命いのちに流れ入る。

 花々はわたしの肉体に花ひらく。

 地と水と すべての瑞々しさはわたしの胸の内に香煙のごとくゆり、

 万物の息吹は一本の笛に奏でるごとく、わたしの思想のうえに戯れる。

 (詩聖・タゴール)



 魔導師4人衆と、魔王・ディスはうたう。


 あなたの琴には無数の弦がある。

 わたしを弦を そのなかに加えてください。

 あなたが弦をうつごとに、わたしの心は沈黙を破り、

 わたしの小さないのちは、あなたの歌とひとつになるでしょう。

 あなたの無数の星のなかに、

 わたしの小さいランプを置かせてください。

 あなたの光の舞踏の中でわたしの胸はとどろき、

 わたしのいのちは、あなたの微笑とひとつになるでしょう。

 (詩聖・タゴール)



 《ンフフフ……、あたしに全能善神ゴッドの役割を与えてくれて、トレジャンの葦笛あしぶえのひとつに加えてくれて、仲間に迎えてくれて……、ありがとう……。 ディス》


 《プルルル……、ディスよ! 我々は未來王の弟子であり家族である! これから俺たちとたくさん遊ぼうね! 我らは無二なる友であり兄弟である! ディス、これからよろしくなァ? 魔導師4人衆》



 獰猛狂気どうもうな仲間たちは結束する。

 魔王・ディスと魔導師4人衆は顔を見合わせてニヤリ、笑う。

 敬愛敬慕する未來王に向けて、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの『パワー・オブ・ラブ』を歌う。

 ♪

 君は愛の力を感じるのさ 強い愛の力を…………

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