異世界召喚直後に命を救ってくれた恩人が裏切者として処刑されました。私はどうしたらいいですか。

@humika_akizuki

プロローグ

プロローグ1「ブタの丸焼き女子高生」

 シカとかイノシシとかの獣を狩った後、足四本を縛り棒に括り付けて二人がかりで持って帰ってくる図は見たことがある。

 だが女の子、というかヒトに対してしているのは初めて見た。人攫いした後にしてもやり方があるだろう。


「なんだ、お前?」


 俺は道に迷って、道なき道を歩いて人里らしいところに出たと思ったら人がいない。 

せめて水だけでも拝借できないかと井戸を探していたらちょうど山賊団のお帰りに遭遇したみたいだ。


「あー、この辺で水を汲める場所を探しているんですが……なさそうですね。失礼しました」


 相手は人攫いしてる賊。

 逃げるべきだ。


「おい、待てよ」


 引き止められる。恐る恐る振り返ると


「あるぜ、水。欲しいんだろ?」

「いやー……急ぎではないので大丈夫です。お邪魔しました……」

「助けて! お願い!」


 女の子は、藁にもすがる目でこちらに助けを求める。

 (あー話がこじれた……逃げられなくなった……)


 「寄っていけよ。遠慮するなよ。なあ?」


 頭らしき人物は、笑顔で話してはいるが目は笑ってないし、取り巻きもじりじりとこの里の出口を塞ぎながら包囲できる位置へ歩いている。


 (こうなったら仕方ないよな……)


 「遠慮するよ。どう見ても賊の一団に身を預けるのは、ごめんだね」

「そう言うお前は……この辺の人間じゃあないな。出歩くならここには近づくなって親に教わらなかったのか?」


 盗賊たちは、獲物を目の前にどう弄んでから仕留めるかを考え、そのゆく末を哀れみ、あざ笑う目をしていた。


「悪いな、俺の親父は国をも揺るがす大武人でな。賊如き皆殺しできなければ、その親父に殺される。」

「虚勢を張りたいならもう少しマシなこと言えよ」


 賊たちは各々の武器を取り出し構える。俺も背中から両刃の短剣を抜く。


 (そこの子はかわいそうだが逃げるか……)


 と、考えて出口の1つに狙いを絞り強行突破のすきを窺う。

 一瞬の静寂が流れる。

 お互いが、どの瞬間を狙って襲い掛かるかを見計らう。

 聞こえるのは、自分の心臓の音とにじり寄る足音。

 そして、かすかに風の音と複数の馬の駆ける足音が聞こえる。


 (馬の足音……、ここにか?)


 そう思い、警戒しながら横目で辺りを見渡す。

 この集落の出入り口は二つ。

 一つは賊が帰ってきた道で里に入るまでは下り坂で見通しは悪い。

 そして、もう一つは上り坂で、その先には騎馬に乗り武装した集団がこちらに向かっていた。


「山狩りだぁぁぁぁああああああああ」


 盗賊の一人が叫ぶ。

 盗賊や山賊を討伐する兵士だろう。

 賊から見れば、自分たちが狩られるのでその表現は言い得て妙だ。

 この調子だと、山賊たちは迎撃の体制をとれないまま全員殺されるか捕縛されるだろう。

 そして、もれなく俺もそのお仲間として数えられる。

 賊たちは山狩りの兵士に気を取られている。

 それならやることは一つ。


 服の袖から魔石を取り出し、魔力を少し流し込み起動させる。

 すると一呼吸おいてから、魔石から大量の煙が一気に吐き出され、辺りからは、怒号が聞こえてくる。

 兵士が迫ってきているのに、辺りは煙だらけだから当然だ。

 この隙に脱出すれば--------


 (助けて! お願い!)


 ふと、さっきブタの丸焼き状態だった女の子が脳裏によぎる。

 自分のことを考えるなら迷わず逃げるべきだろう。

 山狩りをしているのは兵士だ。

 あの状況を見れば、攫われたのはわかるから保護してもらえるだろう。

 だが……。

 

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 混乱に乗じて、女の子の周りにいた盗賊を無力化し女の子を救助。

 そこから、女の子を抱っこして道なき道を全力で跳んで走った。

 ただ、いくら魔力で身体を強化しようとも、何事にも限界はある。


 今は酸欠で目の前は白黒の砂嵐の中にいるような風景が見え、肩を大きく揺らしながら空気を取り込むことしかできない。

 女の子はひとまず近くにあった岩へ座らせ、自分は仰向けに地面へ寝転がって荒い息を整えている状態だ。


「だ、大丈夫ですか……?」


 女の子は心配そうに、だが借りてきた猫のように縮こまりながらこちらを見る。


「だ、大丈夫だ……少し、息を……整えさせてくれ……」


 少しの間だけ、俺の荒い息と僅かな自然音のみが二人に聞こえていた。


「あ、あの……」

「ど、どうした?」

「いろいろと混乱してるのですけど……とりあえず、ありがとうございます。助けていただいて」


 女の子は、若干の安堵と不安が混じった作り笑いをした。

 目が充血しているその作り笑いは、無理をしているように見えた。


「ああ、気にしないでいいよ……、けどあのままあそこにいたほうがよかった可能性もあるんだけどね……。」

「どういうことですか?」


 女の子は警戒半分、疑問半分といった顔でこちらを見る。


「君のあの姿を見れば攫われた人だってことはわかるから、兵士に保護してもらえた可能性はあったんだよね……。」


 女の子は少し目を伏せ考えたように見えたが「兵士って……何ですか?警察じゃないんですか?」 と聞いてきた。


「兵士は、そのケイサツってやつではないな……。第一、君の親も徴兵されるだろ普通。」


 体を起こし立ち上がりながら、そう聞くと、女の子は暗い顔をする。


「私の……両親……」

「すまん、あまり思い出したくなかったことのようだな」

「そんなことはないですよ。ただ……一晩帰らなかったから心配してるだろうなって思って」


 女の子は心配した俺を気遣って、返答してくれた。あるいは本当に何もないのかもしれない。

 そして、少しの間をおいて「あの……ここはどこなんでしょうか」 と質問を投げてきた。



 少し言葉を考え、問う。



「君は元々どこに住んでいたんだ? 変わった服を着ているが……」


 肩から胸にかけて青と赤の布を下げ、腰には青か紺の布を巻いている。

 一目見てこの国の人間が来ている服とは全く系統が違う服を着ている彼女は顔を曇らせながらも答えてくれた。


「いえ、それが気が付いたら夜の森の中で……そして夜が明けたらさっきの人たちに襲われて……」

「気が付いたら……か……。君、名前は?」

「柊……実琴と言います。」


 彼女……ヒイラギミコトはそう答え、あの、あなたは?と問いかけてきた。


「俺は、ユイトだ。みんなにはそう呼んでもらってる。」

「ユイトさん……あの」


 そう言葉を続けようとしたが大声に遮られる。


 「伏せろ!」


 大声で反射的にダンゴムシみたいに縮こまった。

 直後に風よりも速く駆ける影によってユイトは宙を舞った。

 ユイトを中心に世界は三秒ほど回ったのち、世界は元に戻りユイトは動かなくなった。


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 風よりも速く駆けた影は、獣ではなかった。

 髪を後ろで束ね、手には槍を握り、凛々しくも鬼気迫る風格を放つ武人の女の子であった。


 その武人はユイトを追い走ってきた。

 しかし、息一つ上げておらず見つけるや否や先手必勝と言わんばかりに一撃を見舞ってきた。


 ユイトを賊の一人として認識したようだ。

 武人は座り込むミコトを一瞥し「無事で何より」と語り掛け、倒れるユイトにトドメを刺さんと近づいていく。


 しかし、「待ってください、その人を殺さないで!」 とミコトが叫んだ。

 どういうことかと一瞬、視線と意識が後ろにいたミコトへ向いた。


 その一瞬だった。


 尋常ではない殺気を受けた武人は、迷わず槍を上から地面へ叩きつけるように振り下ろした。

 しかし、叩きつけるように振るった穂先は地面には届かず、短剣で受けきられていた。

 先ほど不意打ちの一撃で戦闘不能にしたはずのユイトが、突如起き上がり間合いを詰めてきたかと思えば、渾身の一撃を受けきられ武人の表情には驚きと焦りが見えた。


 ユイトは迷わず、槍の間合いの内側へ飛び込む。

 だが武人もすかさず槍を手放し、腰の短剣を左手で抜き取りその刃を突き立てんと迷わず振りぬく。


 が、その一撃は寸でのところで見切られ懐に入り込まれてしまう。

 ユイトはすかさず、掴みかかりながら押し倒さんと相手の重心を後ろへ反らす。

 押し倒されまいと、踏ん張る武人。


 しかし、それを見逃さず重心をかけている足を引っかけながら強引に押し倒した。

 左腕は右ひじで抑え、完全に制圧した。

 あとは首を掻き切れば殺せる。ユイトは迷わず短剣を首に押し当てる。

 が、その刃が武人の首を掻き切ることはなかった。


 武人は驚いた表情で、しかしユイトの目をまっすぐ見た。

 ユイトは武人の顔を見て、苦虫を嚙み潰したような表情をした。


「お前かよ……」


 と、言い残しユイトはそのまま武人に覆いかぶさるように倒れ意識を失った。

 緊張の糸が切れるまで数秒がかかったが武人も、


「じゃまだ! そこで気絶するなどけ!」


 と、騒ぎ出した。

 ミコトは何が何やらと思っていたが、ひとまず目の前で人が死ぬことはないことだけは感じ取り、胸をなでおろすのであった。

 


 

 

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