第19話 偽物勇者と猫と死体 11
「いやー! 興奮っす! こいつまだ生きてるんすよね!」
「うむ、解凍して電気刺激でも与えてやれば動き出すはずじゃ」
「こっちは死体になっちゃってますけど、これはこれで使い道あるんで! 生け捕りに比べたら額は小さいっすけど、ついでに引き取らせてもらいます!」
その後、アルフゥリアと共にやってきた機関の職員に二体の人狼をまとめて引き渡し、俺たちは……最終的に。
二千と五十万ルクスを手にした!
生け捕りが高いのか死体が安いのか。まあ、両方なんだろうな。
ただし、額が額なので手渡しというわけにもいかず、金融口座を持っていたアルフゥリアが代表して受け取ることになった。さすがに……聖女は横領なんてしないと信じたい。さすがにな。
「グフ、クフフ、クハハハハ! 笑いが止まらんな! 勇者最高! ウナギ最高!」
聖都に戻り、いよいよ帰り道での落とし穴もなくなった俺は、高らかに声を上げる。
夜ということもあり通行人には迷惑そうな目で見られたが、知ったこっちゃない。俺は明日からなんちゃって富豪になるのだ。俗人の一挙一動くらい大目に見てやろう。そうか。これがウナギにある強者の余裕か。理解。
「勇者のゆの字もない三段笑いですね。あらかじめ言っておきますけど、バカなことに使わないでくださいね?」
「なんだバカなことって」
「刹那的な享楽全般です」
「聖女っぽいこと言うな。いいじゃねぇか刹那的な享楽でも。どうせ人間なんて刹那にしか生きてねぇんだぞ。そうだな、まずは札束で人をビンタしてみたいな……人生で一回はやりたいよな」
「エルガさんだけですよそんなの……。せっかくなら、恵まれぬ子どもたちに寄付などされてはいかがですか?」
「何で顔も知らねぇやつのために金払わなきゃなんねぇんだよ」
「ひどすぎる……。もう。渡さないとは言いませんけど、月々のお小遣い制くらいにしておきましょうか?」
俺は自分の顔がさっと青ざめるのを感じた。こいつ、恐れていたことを!
俺は手を揉み、ついでにアルフゥリアの肩も揉む。
「いやいや。冗談ですやん。寄付しよっか? ねえ、ちょっとくらい寄付しよっか。四人で五十万ずつ出せば二百万だ。二百万もあれば、孤児院の一年ぶんくらいにはなるよな。なあウナギ、なあリオン」
「妾は別に構わぬが。元々使途も多くないしのう」
「じゃあ俺にくれよ」
「たわけ、使途がないとは言っておらぬわ。杖の強化に使うのじゃ」
「ぼくは……どう、しようかな。あ、違うよ。寄付するんだったらしていいんだけど。やっぱり、ぼくの取り分はいいよ」
「え、マジで?」
ウナギが杖で小突いてくる。クソ、鎮まれ俺の本能よ。
「結局ぼくは、エルガくんが約束を守ってくれたのに、戦えないままだった」
「約束?」
「ぼくを見捨てなかったでしょ。だったら……ぼくも、戦わないといけないと思う。きみの行動に報いるために。でも、ごめんね。エルガくんも、気づいてたんだよね。まだちょっとぼくには難しくて」
リオンの手はもう震えてはいないが、いまは声が震えている。
「それができるまでは……ぼくは、お金を受け取りたくないな」
なんて、どうでもいい悩みだ。金だぞ。受け取れるなら受け取れるだけ受け取ればいいだろうが。俺には理解できないな。絶対に。
俺は少し考えてから口を開いた。
「お前も、大概バカだな。たかだか一回のことで人を信用するなよ。だが金は信用できるぞ。暴落の可能性がないとは言わないが、少なくとも
「あの、何の話?」
黙ってろ。これは前置きだ。
「だから、お前が金を要らんと言うのなら、俺はありがたく受け取ろう」
ウナギにアルフゥリアも加わって、俺の背中や肩がげしげし殴られる。待て、今回は違う。
「そしてこの降って湧いた五百万ルクスで、俺は投資をするんだ」
「投資?」
「そうだ、投資だ。刹那的ではない使い方だ。意外と便利な状態異常魔法やら隠密魔法やらが使えて、索敵能力に長けていて、ついでにそこそこ可愛いものの、火力と頭と身体付きが残念な猫耳魔法少女がいる」
「はっ?」
リオンが目を丸くする。同時に俺の背後への攻撃が止む。
「だが。将来的には前衛としても活躍するかもしれないし、残念な頭の病気も治るかもしれないし、何より今後ナイスバディーにならないとも限らない。その可能性を五百万ルクスとちょっとで買ってやる。だから……受け取っておけ」
「な……何言ってるの、バカじゃん」
「五百万をみすみす手放そうとするアホに言われたかねぇんだけど。お前がそんな態度だと、アレだアレ。そう、俺の株が揺らぐんだよ。五百万を前にしたら人間は飛びつかなきゃいけない。決して俺がアレなわけじゃねぇんだ。ほらリオン、五百万だぞ五百万。クソ、アルフゥリアちょっと札束下ろして来いよ。ここ札束ビンタするシーンだから」
「エルガさん……それにリオンさんも。もう少し素直になってみては?」
アルフゥリアに背を押されたリオンは、明後日のほうに視線を向けながら自らのポケットを探る。そして指先で紐を手繰り、小さな瓶を取り出して、こちらに差し出す。
「……じゃ、はい。『可能性』」
「ぶっとばすぞ。これ五百ルクスぽっきりだぞ」
「プライスレス!」
「……ああ、なるほどね」
俺はそのプライスレスな小瓶を受け取る。
「つまり、これと引き換えれば本来プライスレスなウナギの胸が揉み放題と」
俺は三方向から殴られた。こんなオチばっかだ。
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