18話目 パジャマパーティーする話 その2

 夜もそれなりの時間になり、お風呂上がり。私はパジャマに着替え、カリンさんの部屋に入った。

 カリンさんの部屋はシックな家具で揃えられていて大人っぽく見えた。

 みんなはすでにお風呂から上がっており、私が最後の順番だった。

 私は淡いピンクの花柄模様のパジャマ。玲奈はラフなスウェット。カリンさんは高級そうなサテン生地のパジャマ。菊池さんは水色生地に、さっきエプロンで見たデフォルメされた犬の模様が入ったパジャマを着ていた。

「それじゃあ、サクラコも来たことデスし、早速始めましょうか!」

「始めるってなにを?」

 私は尋ねると、玲奈が答えてくれた。

「トランプだって。カリンがどうしてもやりたいって言ってさ」

「お泊りの定番じゃないデスか」

「そういうことならやろっか」

 みんなが集まっているローテーブルの近くに、私はちょこんと座る。

 カリンさんはトランプをシャッフルし、みんなに配る。

「まずは定番のババ抜きでいいデスよね?」

 反対意見はなく、カードを手にとってペアになっているカードをローテーブルの中央にみんな置いていく。

 残った私の手札の中にはジョーカーが含まれていた。

「順番はどうしますか?」

 カリンさんが問いかけると菊池さんが答えた。

「じゃんけんで勝った人から時計回りでいいんじゃない?」

「私もそれで良いと思う」

「うん。異議なし」

 私と玲奈はそう賛同し、みんなでじゃんけんをした。順番は私、玲奈、カリンさん、菊池さんの順番になった。

 順番にカードを引いていって、ペアになったらみんな捨て場にカードを捨てていく。

「あっちゃ、ジョーカー引いちゃった」

 玲奈は私の持っていたジョーカーを引くとカードをシャッフルし、カレンさんにカードを向ける。

「オーウ!」

 早速ジョーカーを引いたらしく、カレンさんは声を漏らした。

「分かりやすい」

 菊池さんはボソッと口にしてカリンさんからカードを引く。

「上がり」

 菊池さんは残った手札を捨て場に置いて言った。

 私のもとにジョーカーが戻ってくるかもしれないと思いながら、もう何巡かする。けれど、ジョーカーは私のもとには来なかった。

 というのも……。

 私は右端のカードを取ろうとすると、ニヤリとカリンさんは口を歪める。そう、表情からしてジョーカーだと分かってしまったのだ。

 私はカード隣のカードを引くとカリンさんは悲しそうな表情をする。ペアにはならず、私は玲奈にカードを向けた。玲奈はスッとカードを引く。

「お、上がり」

 残るは私とカリンさんだけれど、カリンさんの表情の分かりやすさからして結果は語るまでもなかった。

「ワタシの負けデス! もう一回やりましょう!」

 私たちは順番を変えたり、席順を変えたりするも、敗者は変わることはなかった。

「どうしてワタシばかり負けるのデスか!」

「表情わかり易すぎ」

 頭を抱えるカリンさんに対して、菊池さんはこっそり口にした。

「他のことやりましょう! なにがいいデスか?」

「ボク、あれ見たい」

「おお、あれデスね!」

 あれってなんだろうと思いながら、トテトテと棚の方へカリンさんは向かっていきなにかを取り出した。手にしたものは子猫と子犬が戯れているジャケットのブルーレイだった。前に見た、わんにゃん癒しタイムだ。

「あ、それ。春先に見たやつ。買ったんだ」

 私は口にすると、カリンさんはブルーレイプレイヤーにディスクを入れていた。

「ワタシもアヤノもお気に入りデス!」

 早速、リモコンを取ってをスタートボタンをカリンさんは押す。私たちはテレビモニターの前に集まってわんにゃん癒しタイムを見始めた。

 あっという間に二時間は過ぎていき、私たちみんなは子猫と子犬の戯れにメロメロになっていた。

  × × ×

 寝る時間となり、カリンさんはベッドに、私と玲奈、菊池さんは用意された布団に入っていた。

 パラパラと音がしたので音のした方を向いてみる。窓があり、雨が軽く叩きつけられていた。

「そういえば、夜から雨が降るって天気予報で言ってた」

 菊池さんは布団に潜りながらそう言った。そういえばテレビでそんなことを言っていた気がする。一時的なもので明日の朝には止んでいるでしょう、とも言っていたはず。

「サクラコとレイナは、豆電球はつける派デスか?」

「私はつけない」

「あたしも」

「おおう、三対一デスか」

 菊池さんの答えは知っているようで、カリンさんは落胆をした。

「それじゃあ、暗くして寝ます。おやすみなさいデス」

 窓を叩きつける雨音が大きくなるつつも、みんなはそれぞれの布団に入って眠りについた。

  × × ×

 布団の中の私は起きていた。雨音が大きいせいで眠れなかったわけではなく、大きな雷が鳴ったせいで目が覚めてしまったのだ。

 ホラーの驚かせる演出は強い私だけれども、雷の音だけはどうしてもびっくりして恐怖心を煽ってくるので心臓に悪い。

「桜子、起きてる?」

 小さな声は隣の布団にいる玲奈のものだった。

「うん。起きてる」

 私は玲奈のいる方向へ身体を向ける。玲奈も私に合わせて身体を向けてくれたようで、顔を見合わせる形になった。

「桜子、雷、苦手だったよね。眠れる?」

「ううん、ちょっと無理かも」

 首を横に振り、弱気な声で私は返答する。

 玲奈は布団を少し上げていた。

「こっち来なよ。少しは安心するかもよ」

「うん、そうする」

 幼い頃の夏を思い出す。公園で遊んでいたとき、夕立が降り始めた時のことだ。

 ドーム状の遊具に避難した私たちは二人で寄り添っていた。

 急な雷の音で私は怯えてしまい、幼い玲奈が私のことを抱きしめてくれた。そのことを懐かしく思い微笑むと、玲奈がくすりと笑った。

「ホラーは得意でも雷は苦手なんて、なんか変なの」

「それは怖さの種類が──」

 ピシャーンと雷が光り、私は身体をビクンとさせる。私は涙声になって言う。

「違うの。ホラーは作り物だし」

 私は言い訳していると、私の方に寄ってきて、玲奈が抱きしめてくれた。

「安心するまでこうしているから」

「うん。ありがとう、玲奈」

 そうして私は玲奈のぬくもりを感じながら眠りについていった。

  × × ×

 朝になると、天気予報で言っていた通り、雨はすっかり止んでいた。すぐ近くから玲奈の声がした。

「桜子、眠れた?」

「うん。玲奈のおかげだよ。ありがとう」

 私は微笑んで玲奈にお礼を言った。

 カリンさんと菊池さんの様子をうかがう。ふたりはまだ眠っているらしい。

「もうちょっとだけ寝ようっか、桜子」

「そうだね」

 私たちはもう少しだけ抱き合って眠ることにした。

 その後は何事もなく朝食を取り、お開きとなるまでのんびりとだべった。

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