第5章 生徒会選挙、決着③
5.3 選挙の余韻
5.3.1 茜と舞凛の対話
投票が終わり、生徒たちが体育館を後にする中、私は静かに舞凛先輩の元へ向かった。
壇上から降りた彼女は、表情こそ冷静を装っていたものの、その手はギュッと強く握りしめられていた。
「舞凛先輩!」
声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げた。
「……おめでとう、北条さん」
そう言いながらも、悔しさを隠しきれないのが伝わってくる。
「あなたの考えが必要だと思う生徒が、私より多かったのね」
それが事実だと理解しているからこそ、彼女は素直に受け止めているのだろう。
でも、その視線は僅かに揺らいでいた。
私は深く息を吸い、静かに言葉を紡ぐ。
「……でも、1票差です」
「え?」
「つまり、私を支持した生徒と、舞凛先輩を支持した生徒は、ほぼ同じ数だったってことです」
舞凛先輩は驚いたように私を見つめた。
「私が勝ったとはいえ、好き勝手にルールを変えていいわけじゃない。自由を広げるのはいいけど、それがみんなに受け入れられる形でないと意味がない」
「……でも、ルールが崩れたら秩序がなくなるわ」
彼女は真剣な眼差しで私を見つめ返す。
「校則は、生徒たちのために存在するものよ。むやみに変えてしまっては、混乱を生むだけじゃない?」
「その通りです。でも、今の校則が“全員のため”になってるとは限らないですよね?」
私は一歩、舞凛先輩に近づいた。
「ルールが厳しすぎて、逆に窮屈に感じてる子もいる。それに、自由を求めること=秩序を壊すこと、ではないはずです」
「……」
「自由と秩序のバランスをどう取るべきか、一緒に考えませんか?」
舞凛先輩はしばらく黙っていた。
表情は複雑で、納得しきれない部分もあるのだろう。
でも、その目には迷いがあった。
やがて、彼女は小さくため息をつき、静かに言った。
「……あなたが本当に生徒のことを考えて行動するなら、私は新生徒会の一員として、あなたを支えるわ」
驚いて目を見開く。
「本気ですか?」
「……あなたが生徒たちのことを軽視したり、ただのパフォーマンスで終わらせるつもりなら、その時は全力で反対する。でも、あなたが真剣に向き合うなら、私も協力するわ」
その言葉に、私は少しだけ笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、舞凛先輩」
こうして、私たちの間に、対立ではなく協力の関係が生まれた。
新しい生徒会の形が、少しずつ見えてくる気がした。
5.2.2 玲華の反応
選挙の翌朝、校門をくぐると、すれ違う生徒たちの視線が今までと違って感じた。
「おはよう!」と声をかけると、ぎこちなく返してくる子もいれば、嬉しそうに笑いかけてくる子もいる。
結果が出たんだと、改めて実感する。
靴箱でローファーに履き替えていると、背後から落ち着いた声が響いた。
「おはよう、北条さん」
藤城玲華。
静かで、張り詰めた空気を纏っている。
昨日、舞凛先輩と共に壇上を降りたときの彼女の表情は、悔しさを押し殺したものだった。
「おはようございます、玲華先輩」
私はできるだけ明るく返事をした。
玲華先輩は私の顔をまっすぐ見つめながら、ふっと小さく息をつく。
「……生徒たちは、あなたを選んだのね」
「はい」
私の答えに、彼女はゆっくりとまばたきした。
「私が生徒会長として守ってきた聖和の伝統と秩序は、なんだったのかしら」
玲華先輩の声には、怒りや悔しさよりも、静かな戸惑いが混じっていた。
私は一瞬、返す言葉を見失う。
玲華先輩はずっと、この学校の『秩序』を守るために戦ってきた。
それが、全校生徒の投票によって否定されたように感じているのかもしれない。
「でも、これが聖和の生徒自身が選んだ道なのね」
玲華先輩は呟くようにそう言った。
その横顔には、どこか寂しさが滲んでいるように見えた。
「そうです。でも、これは秩序を壊すためのものじゃありません」
私ははっきりと言った。
「私は、生徒一人ひとりがもっと自分らしくいられる学校を作りたい。だから、秩序を壊すんじゃなくて、新しい秩序を作るつもりです」
玲華先輩は少しだけ眉をひそめた。
「……自由が行き過ぎれば、必ずまた秩序を求める声が上がるわ」
「……」
「本当にあなたは、その責任を負えるの?」
試すような、探るような視線。
「そのとき、どうするの?」
責任——。
確かに私は『ギャル解禁』を掲げて生徒会長になったけど、それが本当に実現できるのか、まだ何も決まっていない。
教師たちは当然反発するだろうし、選挙では私を応援してくれた生徒たちも、実際に制度が変われば不安を抱くかもしれない。
もし校則を緩めた結果、校内が荒れたり、問題が起きたりしたら……?
私に、それを抑える力はある?
「……まだ、答えは出ていません。でも、私は絶対に逃げません」
玲華先輩は少し目を細め、私の顔をじっと見つめた。
そして、ふっと視線を逸らす。
「——琴音も、そんなことを言っていたわ」
琴音先輩?
「琴音先輩が……?」
玲華先輩はわずかに微笑んだ。
だけど、それはどこか遠い記憶を振り返るような、切ない笑みだった。
「……いいえ、何でもないわ」
玲華先輩は静かに踵を返す。
「あなたの『自由』が、本当に聖和にとって必要なものかどうか……これから見せてもらうわ」
その言葉を最後に、玲華先輩は歩き去った。
私はその背中を見送りながら、心の奥がざわつくのを感じていた。
彼女の『試すような言葉』は、私に投げかけたものなのか、それとも——
自分自身に向けたものだったのかもしれない。
5.3.3 教師側の対応
職員室には、いつもと違う緊張感が漂っていた。
生徒会選挙の結果が発表された直後から、教師たちの間で議論が始まっていたのだ。
「まさか、本当に北条さんが当選するとは……」
「1票差ですって? 本当にギリギリの勝負だったのね」
「でも、『ギャル解禁』なんて、そんなの認められるわけがないでしょう」
賛否の入り混じった声が飛び交う中、私は静かに校長の様子を窺っていた。
校長は腕を組み、神妙な面持ちで教師たちの話を聞いている。
「染谷先生、どう思いますか?」
隣に座る西村先生が、控えめに尋ねた。
私は一瞬考え、そして、はっきりと言葉を選んで答えた。
「生徒たちの声を無視することはできませんね」
その一言で、職員室の空気が一瞬静まり返る。
「……しかし、感情的な反発だけで校則を変えるわけにはいかないでしょう」
校長が慎重な口調で応じた。
「生徒たちがどれだけ本気なのか、見極める必要があります。たとえ選挙で勝ったとしても、ただの一時的な流行や反抗心からくるものなら、それを学校の方針に反映させるべきではありません」
「おっしゃる通りです」と、生徒指導の谷村先生が頷く。
「生徒たちに自由を与えすぎれば、秩序は崩れます。私たちは学校の品格を守る立場ですから」
「ですが、今回の選挙はただの反抗ではなく、変革の意志だと思います」
私は真っ直ぐに校長を見た。
「生徒たちは、今までの厳しい校則の中で、自分たちなりに考え、模索してきました。北条さんが掲げた『ギャル解禁』というスローガンも、単なる外見の自由ではなく、生徒たちが自分らしさを表現できる環境を求める声ではないでしょうか」
「表現の自由、ですか……」
校長は目を閉じ、ゆっくりと考え込む。
「私は、北条さんたちが本気であるなら、彼女たちの考えをきちんと聞く場を設けるべきだと思います」
「それは……つまり、話し合いの場を持つということ?」
谷村先生が驚いたように尋ねると、染谷は小さく頷いた。
「ルールは、生徒たちを守るためのものです。でも、生徒たちが息苦しさを感じているなら、それは時代にそぐわなくなっている可能性もある。教師としての責任を果たすならば、生徒たちの意見に耳を傾け、彼女たちがどれだけ本気で考えているのかを見極めるべきです」
「でも、それでは今の校則の意義が……」
杉本先生が食い下がるが、染谷は静かに答えた。
「校則は絶対ではありません。必要なら、見直すこともまた教育の一環ではないでしょうか」
教師たちの間で意見が分かれ始める。
「生徒たちに議論の機会を与えるべきだ」という声と、「秩序を守るために厳しくあるべきだ」という声が交錯する。
校長はしばらく沈黙し、やがて深く息をついた。
「……まずは、話を聞くことから始めましょう」
その一言で、議論はひとまず収束した。
私は、静かに胸をなでおろした。
——まずは第一歩。それでも、これは確実に大きな一歩だ。
北条茜たちは、これから学校と向き合うことになる。
彼女たちがどれだけ本気なのか、それはこれから証明していくしかない。
教師たちの中でも、改革を求める声が少しずつ広がり始めていた。
5.3.3 教師側の対応
職員室には、いつもと違う緊張感が漂っていた。
生徒会選挙の結果が発表された直後から、教師たちの間で議論が始まっていたのだ。
「まさか、本当に北条さんが当選するとは……」
「1票差ですって? 本当にギリギリの勝負だったのね」
「でも、『ギャル解禁』なんて、そんなの認められるわけがないでしょう」
賛否の入り混じった声が飛び交う中、私は静かに校長の様子を窺っていた。
校長は腕を組み、神妙な面持ちで教師たちの話を聞いている。
「染谷先生、どう思いますか?」
隣に座る西村先生が、控えめに尋ねた。
私は一瞬考え、そして、はっきりと言葉を選んで答えた。
「生徒たちの声を無視することはできませんよね」
その一言で、職員室の空気が一瞬静まり返る。
「……しかし、感情的な反発だけで校則を変えるわけにはいかないでしょう」
校長が慎重な口調で応じた。
「生徒たちがどれだけ本気なのか、見極める必要があります。たとえ選挙で勝ったとしても、ただの一時的な流行や反抗心からくるものなら、それを学校の方針に反映させるべきではありません」
「おっしゃる通りです」と、生徒指導の谷村先生が頷く。
「生徒たちに自由を与えすぎれば、秩序は崩れます。私たちは学校の品格を守る立場ですから」
「ですが、今回の選挙はただの反抗ではなく、変革の意志だと思います」
私は真っ直ぐに校長を見た。
「生徒たちは、今までの厳しい校則の中で、自分たちなりに考え、模索してきました。北条さんが掲げた『ギャル解禁』というスローガンも、単なる外見の自由ではなく、生徒たちが自分らしさを表現できる環境を求める声ではないでしょうか」
「表現の自由、ですか……」
校長は目を閉じ、ゆっくりと考え込む。
「私は、北条さんたちが本気であるなら、彼女たちの考えをきちんと聞く場を設けるべきだと思います」
「それは……つまり、話し合いの場を持つということ?」
西村先生が驚いたように尋ねると、私は小さく頷いた。
「ルールは、生徒たちを守るためのものです。でも、生徒たちが息苦しさを感じているなら、それは時代にそぐわなくなっている可能性もある。教師としての責任を果たすならば、生徒たちの意見に耳を傾け、彼女たちがどれだけ本気で考えているのかを見極めるべきです」
「でも、それでは今の校則の意義が……」
谷村先生が食い下がるが、私は静かに答えた。
「校則は絶対ではありません。必要なら、見直すこともまた教育の一環ではないでしょうか」
教師たちの間で意見が分かれ始める。
「生徒たちに議論の機会を与えるべきだ」という声と、「秩序を守るために厳しくあるべきだ」という声が交錯する。
校長はしばらく沈黙し、やがて深く息をついた。
「……まずは、話を聞くことから始めましょう」
その一言で、議論はひとまず収束した。
私は、静かに胸をなでおろした。
——まずは第一歩。それでも、これは確実に大きな一歩だ。
北条さんたちは、これから学校と向き合うことになる。
彼女たちがどれだけ本気なのか、それはこれから証明していくしかない。
教師たちの中で、改革を求める声が少しずつ広がり始めていた。
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