第22話 作戦

 残された一行は呆然としていた。

「アシュリー、どういうことだ? 同盟を結びたいと言っていただろ」

「ええ。ただ一つ問題があるんですよ」

「問題?」

 美久が聞く。


「こちらもできることなら和平をすぐに結びたいんです。ただ、先ほどの条件では国民が納得するには弱いとデヴォンは判断しました。決め手が足りないんです」


 魔王軍が最後に侵略したのは百五十年ほど前だ。その時の国王は先代であるデヴォンの父だった。しかし、人間に阻止されて、魔王軍は深手を負い撤退した。


 先代は好戦的で次の侵略の準備を始めたが、その間に人間も進歩した。

 デヴォンが王座に就くころには、戦争をし勝利してもただでは済まない程に人間の魔法の技術も国力も強くなっていた。


 デヴォンは人間と争うのは損失の方が大きいと判断し、争わず交易をできないかと考えた。


「この土地は天気の影響で作物も育ちづらく余裕がない。土地を奪うより、交易で手に入れる方が速く、損失もないとの結論に至りました。それはデヴォンだけではありません。国民も貴族たちもうすうす感じていたことです」


 ただ、魔族は長命種だ。大昔の人間への憎しみをまだ覚えているものも多く、人間と共に手を取り合うことに不信感を抱いているのだ。


「元人間の私と婚約を結んだのはお互い惹かれたのもありますが、人間を受け入れるための戦略の一つでした。多少は人間への不信感はぬぐえましたが、まだ和平に反対する者もいます。

 それを説得せず和平を結ぼうとすれば、反対派から謀反が起こるかもしれません。この国は実力主義なところがありますから。

 たとえ交易が成立しても後に納得できない人たちが徒党を組み襲撃、なんてことも考えられます。そうなったら信用は無くなり、いよいよ和平など難しく、この国は追い込まれます」


 思ったよりもこの国は複雑な思いを抱えているようだ。そんな中、平和的に解決できる手がかりを探し一人で乗り込んだのだと言う。


「じゃあ、私たちはどうすれば?」

 美久が問う。


「証明すればいいのです。魔族と人間は手を取り合えると。仲良くできると」

 アシュリーが美久の目を見た。その瞳は紫がかった黒だった。


「あなたなら、それが出来ると思ったんです」


「私にできるかな……。何もできない」

「できるさ。君はグランツも変えたんだから」




 アシュリーに連れられ、ある村についた。こげ茶の木材で作られた小さな家が並ぶ村だ。


 住民たちが怪訝な顔を向け、敵意をあらわにされ、居心地が悪い。住民たちには角が生えている。それが魔族の特徴らしい。


 アシュリーが友人だと紹介するもその視線は冷たいままだ。


「アシュリー様、おかえりになられたのですね」

 男性がアシュリーに声をかけた。黒い軍服を着て、剣を携えた青年だった。その青年は内巻きの角が生えていた。


「ハルト君、久しぶりですね。皆さんはお元気ですか?」

「はいッ! みんな元気にしています。そちらの方々は……人間、ですか?」


 ハルトと呼ばれた青年は美久たちに気づくと明るい態度が一変し、美久たちを睨みつけ声が低くなった。思わずびくっとしてしまう。


「ええ。私の大事な友人です。こちらがミクさん、クラウスさんです」

「よろしく」

「よろしくお願いします」


 クラウスが礼をし、美久も挨拶をするが、睨んできて何も答えない。

「彼はハルト君。魔族で魔王軍騎士をしており、この村を任されているんですよ」


 レサドラには動物に似た魔獣という生物が多く生息しており、村を襲う時がある。それらから守るため騎士が配属されるらしい。それがハルトだった。


「なぜ人間がここに居るのです」

「魔族と人間の交流を深めようと思って」

「……! 俺は人間と関わる気はありません。それでは」

 強い口調で言い放ち踵を返した。


「この村に来たのはハルト君がいるからです。あの子が一番人間を嫌っています。彼が認めれば、きっとデヴォンも国民も踏み出せるはずです」


「できるかなぁ」

 この時点でかなり嫌われている。ハルトの目は憎しみに満ちていて、人間を拒絶していた。


「できますよ。あなたには武器がある」

 何を言っているかわからなかった。が、アシュリーに連れられた平原でその意味を理解する。


「魔獣を狩って今夜のおかずにしましょう」

「えっ、私の武器って料理ですか」

「そうですよ。胃袋を掴む作戦です!」


 そうこう言っていると平原についた。遠くに魔獣が見える。遠くからでも大きい個体だとわかった。鳥のようなシルエットだった。


「あれを取ります。クラウスさん出来ますか?」

「ああ」

 クラウスがそう言うと剣を抜き、魔獣へ向けた。


 光が彼の前を走り、魔獣へ当たる。直後、空気を切り裂くような轟音が響いた。内臓を揺さぶられ、びりびりとした余韻が残る。魔獣は倒れていた。


「何……それ」

「雷魔法ですね。呪文の詠唱を省略した形になります。さすが王族、魔法も一級ですね。お見事です」

 常に穏やかなクラウスの王族としての一端を見た気がした。


「さ、運びましょう」

「なぁアシュリー、魔獣は人間が食って良いのか? こっちじゃ素材にしか使われないが……」

「調理過程で肉の魔力は抜けるので、食べても問題ないですよ」

 近づけばその魔獣はとても大きく、美久の二倍はありそうだった。鳥の形をしているが黒っぽく、角が生えていて美久の知るものよりも凶悪さがあった。


 アシュリーが指を振ると、魔獣はふわりと浮かんだ。そのままアシュリーが移動すると、魔獣もついてくる。

 便利だなぁ……。買い物の時に役立ちそうだ。


 移動しつつ話をしていく。

「魔獣は魔族と一緒に括られることがあるが、実際どうなんだ?」

「魔獣は人間でいう動物と同じです。害獣もいれば家畜のように人間と暮らすものもいます。黒く、角があり、闇の魔力を有するがゆえに、一緒くたにされてしまっていますが別物です」

 アシュリーは肩をすくめて言った。


「なるほどな」

 クラウスは納得したようだ。


「魔獣と動物はどう違うの?」

「魔獣は魔力を持った獣です」

 アシュリーが説明してくれた。


 闇の魔力を持つ魔獣は魔族と結び付けられてしまっているが、本来はどこにでも生息している。実際、魔獣はレサドラに多く生息しているが、だからと言って人間の国に出没する魔獣はレサドラには関連はないらしい。


 その話を聞きクラウスがなるほどと頷く。

「昔から『魔獣は魔族が送り込んできたものだ』とかよく聞かされたな。今でもそう言う人は多い」

「全く、いい迷惑です」


 長い間の誤解によって溝は深まり、憎しみにつながっていった。そのことに恐ろしさを覚える。


 村に戻ると広場に大きな鍋が置かれていた。

「レサドラはみんなで作って、みんなで食べます。昔食料の奪い合いが起こってこうなったんです」


 鍋の周りに人が集まっている。

「ミランダ、私たちも手伝います。彼女たちに指示を」

「彼女たちが?」

「よろしくお願いします!」

 美久がお辞儀をする。


 ミランダと呼ばれた女性は怪訝な顔をしたが、アシュリーの頼みだからしょうがない、と美久に仕事を振った。


 美久は野菜を切っていく。クラウスは魔獣の解体に駆り出された。


 調理に使う野菜は日本にあるものと似ている。キャベツや唐辛子はそっくりだ。


 調理に参加しない住人たちは遠巻きに美久たちを見ていた。中には殺気を出している人もいて、アシュリーが居なければどうなっていたかわからない。


「あっこらっ!」

 誰かが叫んだ。美久の足に衝撃が響く。足元を見ると小さな女の子がくっついていた。小さな角がついているが、地球の子供と変わらず愛らしい。


「何してるの?」

 その子供が美久を見上げて聞く。美久はしゃがんで目線を合わせて、優しく話しかけた。


「ご飯を作っているの。危ないから向こうで待っててね」

「はーい。がんばれー」

 その子はトテトテと帰っていく。


 あ~可愛い~!

 美久はほっこりする。その子が戻った先の大人には睨まれたが。


「ミクさん、子供の扱いに慣れてますね」

「弟がいるし、子供は好きです」

「そうなんですね。可愛いですよね」

 アシュリーが隣でお肉を切り始めた。


「この国ではどんな料理を作るんですか?」

 アシュリーに聞く。

「調理法はシンプルです。肉は焼いてスパイスで味付け、それにスープを合わせることが多いですね。あとは豆料理もよく出ます」

「へぇ~スパイスってどんな味なんだろう」

「スパイシーで辛いものが多いです。辛いけど美味しいんですよ」

「食べるのが楽しみだなぁ」

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