第14話 グランツの想い

 美久は廊下を歩いていた。今日は食堂での仕事は休みで、輝も授業があるため勉強しようと図書室へと向かう途中だった。


「美久、今空いているか? 時間はとらせない」

 グランツだ。承諾すれば、バルコニーへと案内された。


 そよ風が吹き心地良く、城下町が一望できる。良い景色だ。 


「いい景色だろう? 私は子供の頃、この国をより豊かにしたかった。誰もが学ぶ楽しさを味わえるようにしたかったからだ。しかし大人になるにつれ、そのためには力がいると知ったんだ。

 不安定な世界で国を守らなければならないと、気が付けば国を守ることばかりに考えが偏っていった。力のない者を守れるような国へとな。それも正しい道の一つだろう。しかし、本当は力を持たない者も力を持てるようにしたかったんだ……」


 食堂で言い返されたとき、自分の考えに迷いが生じた。

 自分は守ることに憑りつかれ、美久の能力を決めつけて可能性の幅を狭めたと反省した。


 それから魔力がないのに必死に魔法を学び、聖女の力になろうとする美久を見て自分の初心を思い出したのだ、と続ける。


「ミクのおかげで思い出したんだ」

 グランツは優しく笑った。その顔は付きものが落ちたようにスッキリとし、新たな決意を宿していた。


「学びの中でも魔法は貴族だけのものだ。それをもし、お前のような意欲ある者も学べたとしたら……。美久の着眼点はこの世界には無いものだったりする。立場が違えば見えてくるものも違う。

 我々にはできない考え方や、発見ができるかもしれない。それはこの国をより良くする事につながるだろう」


 美久は静かにグランツの言葉に耳を傾ける。力強い声で紡がれる彼の展望を聞くのは心地よかった。


「国民の可能性を、興味を伸ばしてやれる国にしたい。誰もが可能性を秘めているんだ」


 自分の想いを語るグランツの目には熱い思いが込められ、光が宿っていた。きっとグランツはいい国王になるのだろうと思わせる。


「ミクのおかげで、自分のことをもう一度振り返ることができた。ありがとう」

「どういたしまして」


「それでだ……」

 彼に少し戸惑いの表情が見えた。その頬はほんのり紅潮しているように見える。彼は意を決したように口を開いた。


「ミク。もし、もしもの話だが、ここに残ることになったのなら、私の隣に居てほしい」


 ん? 美久は固まる。


「私の妃になってくれ」


「へっ?」

 プロポーズ?!

 予想していなかった展開にひっくり返りそうになる。グランツが私に?!


「美久の努力家なところも、強気なところも、魅力的だ。それに、私と対等でいてくれるのはお前だけだ」


「待っっっ!」

 思わず大きな声を上げ、手で自分の口元を覆った。グランツは平然と続ける。


「答えは急がなくていい」

 戸惑うも、美久の中で答えは決まっていた。美久の中でゆるぎない存在はたった一人だけ。


「ごめん……!」


 きっぱりと口にする。笑っていたグランツの口元がきゅっと結ばれた。彼の目が一段と鋭く見える気がする。

「気持ちは嬉しいんだけど、私、輝が好きだから……! グランツとは付き合えない……」


 次期国王のプロポーズを断ったなんて、追放されたりしないだろうか……。今更それはないか。

 グランツはそんなことをする人ではない。私情で判断をしないという、その信頼はしている。


「聖女様のことを……?」

 グランツがきょとんとし、一瞬目を伏せて何か考えているようだった。


「あぁ、そうか。合点がいった。お前は最初から聖女様のために行動していたな? 城を離れようとしないのも、帰る方法を探すのも」


 彼は落ち着いた声で言い、笑った。


「ははは、悪かったな。今のは忘れてくれ。忘却魔法でもかけてやろうか?」

「それはいい。グランツの想いは嬉しかったし!」

 これは美久の本心だ。彼といる時は落ち着き、頼りになる。ただそれは彼の求めた気持ちとは違うものだったが。


「冗談だ。そう言ってもらえると嬉しいな」

 魔法使いジョークだ!

 冗談を言うなんて。今まで見てきたグランツとはあまりにも違う。彼の本来の姿を垣間見れたような気がした。


 グランツは吹っ切れたような顔で笑っている。


「勉強の理由、不純だよね……」

「何を言う。魔法は願いであり祈りだ。お前は聖女様の幸せを願っているのだろう。むしろ魔法の本質だ。何より愛する者のためだなんて、物語みたいじゃないか」


「あ、愛する……」


 真っすぐ言われると照れてしまう。


 彼はいつもの鋭い顔に戻った。しかし雰囲気は柔らかいままだ。

「帰る方法が見つかったとして、一人しか帰れないとなったらどうするつもりだ」


「その時は輝一人でも帰れたらいいよ。輝がお母さんに会えるならそれでいい。輝が幸せになるのなら私はそれで満足だよ」


「本当に好いているのだな」


「うん。輝を追いかけて異世界にまで付いて来たんだからね」


「そうか。それなら二人で帰らなければならないな。頑張れよ」

「うん、ありがとう」


「結構話してしまったな。手間取らせて悪かった。このことは気にしないでくれ」

 王宮へと戻ろうとするグランツが「急用ができてしまったな」と呟いた。


「急用?」

「貴族たちにくぎを刺しておかねばならない。じゃあな」

「ほぇ?」


☆☆☆


「って最後に言われたんだけど、どういうこと?」

 グランツと別れ図書室に来たが、彼の最後の言葉の意味が分からずアシュリーに尋ねてるところだ。


 その一連の話を聞き、アシュリーは恋バナをするクラスメイトのようにウキウキしていた。


「あらあらまあまあ、グランツ王子が! 変わるもんですねぇ」

 彼女はニコニコしながら続けた。


「それはきっと、聖女様を狙う貴族に先手を打とうとしているんですね」 

「えっ」

 輝が狙われている? 美久の眉間にしわが寄り、心に暗雲が立ち込める。


「聖女が来たことはすでに国中に、各国にまで広がっています。魔族との闘いはすべての国の問題ですから。聖女は魔族に対抗できる魔力に珍しい光魔法の使い手、誰よりも高い地位にいます。そんな存在を貴族たちが逃すはずがありません」


「それって……」

 輝のために……いや違う……。


「私のため?」


「そうなりますねぇ。彼もまたあなたに幸せになって欲しいのでしょう。私もお二人の事応援していますよ!」

「ほえぇ」


 輝への恋心は今まで誰にも打ち明けず、自分の胸に秘めてきた。こうして打ち明け、応援してもらえるというのはむず痒いが嬉しくなった。

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