第4話 回復魔法

 さらに数日が経ち、美久はだいぶ業務に慣れてきた。調理場を見て、手の足りないところをサポートしていく。


「塩が足りないので補充します」

「ありがとう」


「皿拭き手伝います」

「助かる!」


「ミク! これを運んでくれ」

「はい!」


 料理長の評価の通り、よく状況を見て、細かいところによく気づく。料理人の間で美久がいると料理がしやすいと注目され始めた。


 さらに友人もできた。

「ミクー! ご飯食べよう」

「うん!」


 明るい声で美久に話しかけたのは料理人の一人、ミーシャだ。少し年上だが気が合い、休み時間には一緒にご飯を食べる。そこで彼女にいろんなことを教えて貰うのだ。


 クラウスは王位継承権を放棄し、外交担当として働いていること。


 グランツは王位継承者であり、病気で寝たきりの国王に代わり二十二歳という若さで国を動かしていること。


 その仕事振りは素晴らしく国民からも役人からも慕われていること。ただ、他人に厳しく、求められるハードルが高いこと。


 ついでに婚約者が事故で亡くなっているなど、彼女はいろんなことを話してくれた。


 しかし、楽しい会話は怒鳴り声で打ち消された。


「おいっ! うるさいぞ。静かに食えねぇのか!」

 先輩の男性だった。


 美久たちの声は周りの迷惑になるような声量ではなかったはずだ。他の従業員たちも話しているし、自分たちが特別うるさいという事はないだろう。


「ちょっと、私たちそんなに騒いでないし。あんたの方がうるさいわよ」

 ミーシャが言い返すと、不機嫌なまま踵を返していった。


 彼女がこっそり耳打ちする。

「あいつ腕はいいけど性格に難ありなのよね……」


 昼休みが終わり、再び仕事に戻る。

 パリン、と食堂に乾いた音が響いた。その方向を見ると一枚皿が割れていて、客が戸惑っていた。美久はさっとその現場に近づき破片を回収する。


「大丈夫ですか?」

「はい……。ごめんなさい」

「大丈夫ですよ。片づけて、新しいのをお持ちします」

 ほうきを借り、手慣れた様子で小さな破片も素早く綺麗にした。


 戻った美久に料理長が言った。

「手際が良いな。慣れてるのか?」

「ええまあ。たまにあることなので」


 家で弟が割ったりするし、カフェでも稀にこういうことが起こる。


「対応ありがとう。助かったよ」

 お礼を言われ嬉しくなり手を握った。すると痛みが走った。


「痛っ! あ、切れてる……」

「ああ大変だ。すぐ手当をしよう」

 料理長に救急箱を借りてガーゼを巻いた。配膳に支障はなかったが少し痛んだ。


 その夜、また輝が呼んでくれた。彼女が呼んでくれるたびに、そわっと浮きたつ。


「美久~! いらっしゃい! あれ、手どうしたの?」

「皿の破片で切っちゃって……」


「……、そうだ! こっち来て」

 窓辺に座り、輝は美久の手を両手で包んだ。

 輝の手が温かく、接する面からその体温が美久にも移っていく。


「あ、わっ……」

 平常心をよそおうも内心はそうはいかない。頭がパンクしそうだ。


「レイ、ユ、ハール……」

 輝が呪文を唱える。美久の手を包む輝の手が光り、隙間から光が漏れだす。

 切った指の傷みが引いていくのを感じた。


「はいっ!」

 ぱっと輝が手を離し、ガーゼを取りさる。美久の指の傷が綺麗に塞がっていた。


「すごい! 今の、魔法?!」

「そう! 回復魔法だよ! 今教えてもらっているの」


 一瞬で傷が治るなんて信じられない。だが確かに目の当たりにした。そしてそれは輝が起こしたのだ。美久の目が輝いた。


「本当に治ってる……ありがとう。本当に輝はすごいなぁ」


「どういたしまして。フフッ」

「ん?」

「もう名前呼び慣れたね」

「えっあっ……」

 美久の顔が熱くなる。


 輝は頻繁に美久を呼んだ。輝と過ごす日を重ね、気づいたら彼女といる事にも慣れていたようだ。もう慌てる事もない。


 ただやはり好きな人の前だと胸が高鳴り、少し緊張はする。しかし、輝と仲良くなれるのが嬉しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る