第3話

2度目はそれからきっちり1週間後の同刻。要するに、先週。


接待終わりにたまたま目に付いたバーに入ったら、カウンター席で女性2人を相手にしている悠がいた。



すぐ私に気づいた悠は、女性たちから離れ隣に移動してきた。



偶然の再会を素直に驚き喜んだ。そして、この眼福な男とまた美味しい酒を飲んで、楽しいひと時を過ごせるという期待。



さっきまで悠といた女性たちの、あからさまな敵意は気付かないふりをした。


この時だけじゃない。悠と過ごしている時、何人の女性が悠に声をかけたか。その中の何人に牽制され、嫉妬の目を向けられたか。



悠と過ごす時間は至福で、1週間がんばって働いたご褒美とすら感じた。


素の自分で居られて、気を抜けて、ストレスを忘れられた。



このまま、口説いて欲しくなかった。


口説かれるくらいなら、3度目の偶然なんてなければよかった。



この男とは、色恋抜きで付き合うに限る。



この歳になって、恋愛に振り回されたくない。それに若い時ほどのパワーを注げない。



ただ、もう5歳若かったら、秒で堕ちたかもしれない。



自分は身持ちの硬い方だと思う。ナンパしてきた男は恋愛対象じゃないし、一夜の過ちもない。


割り切った関係だった人なんて、今まで一人もいない。



だからもう、今日これが最後だ。悠に会うのは。



さすがに4度目の偶然は有り得ない。



「突然男出してくるのやめてよ。今までそんな素振りないのが良かったのに。そろそろ連れが戻ってくるから、この茶番やめてくれない?」


「配慮してやっただろ。連れが席外すまで声かけるの待っててやった」


「ドヤらないでよ。声掛けない選択肢はなかったの?」


「ない。なあ、デートだから気合い入れてんの?髪の毛下ろして巻いて、綺麗にしてんなよ」



なんだろう。言葉の端々に棘を感じるのは気のせい?


私が髪を下ろして仕事をしたのがそんなに気に入らない?嫉妬なんてするはずないし、訳わかんない。



「ねえ、なんなのほんと」


「あの男、何者?」



今まで聞いたことのない低い声に驚く私に、再び悠の指先が伸びる。


ちょうど大きくカールしている毛先を一掴みして、私の目をじっと見つめたまま、そこに口付けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る