獣異世界〜ウサギは耳で空を飛ぶ〜
観測オニーちゃん
東都遊郭編1
プロローグ
空を見上げたことはあるか?
遥か遠き空の向こうには果てしない宇宙が広がっている。
そこには膨大な数の星が浮かび、皆が知らぬ無数の異世界が存在する。
今もまた星が誕生し、歴史が紡がれ、【世界】が形成されている。
そうして【異世界】が誕生する。
我が名は【渡り歩く者】。
星に縛られぬ【自由なる獣】にして奇跡を謳い奇跡の中を歩む【月の人】。
私はここに語り継ぐ。
かつての異世界譚を......。
◇◇◇◇◇
所謂、生理現象のようなものだろう。
瞬きをするのと同じことだ。
ふと気がつけばスマホ画面にはスコティッシュフォールド(長毛種)の画像を開いている。
短毛の多いスコティッシュフォールドの中で、長毛の個体が生まれてくる確率は30%とされているらしい。まん丸な顔にさらに膨らみが増しとても愛らしい。
ブラック企業に勤めてはや十年。最もストレスが溜まる通勤時間は僕にとっては癒しの時間だ。駅に向かう道中野良猫(三毛猫のみぃちゃん)をモフり、駅前にあるペットショップで寝起きのモフたちを観察。
そして現在に至る。
このまま永遠に電車が来なければ良いのにと十年間思い続けている。
「くしゅんっ!」
誰かがくしゃみをした。
電車がすぐそこまで来ていることに気づき渋々スマホをポケットにしまい前を向くと視界に飛び込んできたのは線路内にポツンッと香箱座りをする白猫の姿だった。
所謂、生理現象のようなものだろう。
くしゃみをするのと同じことだ。
僕は線路に飛び出しその白猫をホーム下にある避難スペースへと放り投げていた。
次の瞬間、ぐしゃりと鈍い音を立て激痛と共に意識が吹き飛んだ。
◇◇◇◇◇
目を覚ますと見知らぬ木の天井があった。
電車に轢かれ即死は免れないはずだがどうやら運良く生き残ったようだ。
しかし、上体を起こそうにも身体が思うように動かない。
恐らく後遺症が残ったのだと考察するがかろうじて手足は動くようだ。
「あぅ」
ん?
今のは僕の声か?
やたら高い声に違和感を覚えた僕は試しに発声練習をしてみることにした。
「あーぅーあいあーぅーあー!(僕はもふもふが好きだ!)」
それはまるで赤ん坊の声だった。
ありえないと思いつつ僕は自分の体をペタペタと触り最後に小さなしわくちゃの手を見て確信に変わる。
僕は赤ん坊になってしまったようだ。
そしてもう一つ驚くべき事に僕の頭には耳が生えている。
つまり僕には計2対の耳が生えていることになる。
一体僕は何に生まれ変わったのか鏡で確認できないのが残念だ。
しばらく、シダバタと体を動かしていると遠くの方からこちらに向かってくる足音が聞こえた。
スーッと近くの襖が開きその女性が僕の目の前に現れる。
桜色の兎耳を生やす絶世の美女がこちらを覗く。そして僕の頭に生えている耳を触りこう呟いた。
「...真っ白」
どこか冷たく慈愛に満ちた瞳には真っ白な兎耳を生やした僕の姿が映る。
ひょっとしてこの人が僕の....。
数分後、彼女は身を翻しこの部屋から出ていった。
そしてこの日以降、彼女はこの場にやって来ることはなかった。
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