第36話:鈴々の独白

◆◇◆<TOP3美女side>


「ああああぁぁぁぁっ! やっちゃったぁ~っ!」


 帰宅後、鈴々りんりんは自分の部屋に入った途端、頭を抱えてワシワシとブロンド色の髪を掻きむしった。


「秋月っちに、あたしのことが嫌いかって訊くなんて……」


 あんなことを言ったら、『嫌いじゃないよ』って無理やり言わせているようなものだ。

 思い返すと、なんで自分があんなことを言っちゃたのかと、後悔が胸いっぱいに広がる。


 彼が自分のことをどう思っているのか。

 心の奥ではそれを確かめたくて、無意識にあんな質問が出たのか。


「いやいやいや。違うでしょ……だよね?」


 自分の部屋で周りには誰もいない。なのにいったい誰に言い訳しているのか。

 自分自身の変な行動に気づき、苦笑いする鈴々。


「だって……彼ったら、みやちゃんと涼香ちゃんを褒めることばっか言うんだもん。嫉妬じゃないよ。嫉妬じゃないけど、そりゃあ同じバイト仲間として、自分の評価を知りたくなるよね。うん、そうだよ」


 自分に対する言い訳のセリフを口に出してから、ふぅ~と大きく息を吐く。

 嘘だ。そんなの大嘘だって自分でもわかっている。


 鈴々はカフェのバイトで雄飛と親しく接するようになって、初めて彼の人となりを知った。

 まともに仕事ができなくて、どうしたらいいのかわからなくて不安だった時に、手助けしてくれた彼はとても頼もしかった。


 彼は自分や他の女の子がミスした時にも、嫌な顔一つせずにフォローしてくれて、とても優しかった。

 SNSの写真の件では、自分の危険をかえりみず、みんなのために行動してくれた。


 あんなに一生懸命で、いい意味でお人好しな男子は、今まで出会ったことがない。

 気がつけば、学校でもバイト先でも彼が見せる表情や行動に、つい気を取られている自分がいた。


 そしてあの日、彼が涙を流して語ってくれた日。


 雄飛が実は亡き母の理想を追って、店を作りたいと思っていることを知って、鈴々はもらい泣きするほど感動した。

 彼が流した涙はとてもきらめいていて、彼がとても尊く見えて、胸がきゅんとした。


「彼があたしのことをどう思っているのか。バイトのスタッフとして──ではなく、異性として」


 そんなことが気になりだした。

 だけどまだこれは、恋じゃない。

 そう思っていた。




 ──つい、さっきまでは。


 だけどさっきは、雄飛に彼女がいないか、そして自分のことをどう思ってるのか、確かめずにはいられなかった。自分を抑えられなくなっていた。


 鈴々が周りの人を想って、明るく振る舞っていることを、彼はちゃんとわかっていた。


「ちゃんとあたしのことを見てくれてたんだ。うふふ。……うわヤバ。嬉しすぎて、つい気持ち悪い笑いが漏れちゃった」


 そしてあの時、続けて雄飛が言ったセリフが、鈴々の脳裏にリピート再生される。


『自分がつらい時でもみんなのために振る舞うなんて、俺にはできないことだ。そういうことをがんばってやる浜風さんを、嫌いなはずないじゃないか。そういう人は好きだよ』


「うわぁぁっ……あの発言はズルいよね」


 ズルいよねなんて言いながら、ハーフ美少女の顔はどんどんニヤけてくる。


 あの『好き』は異性としてのことかどうか、わからない。

 だけど不意打ちを喰らったせいで、とてもときめいた。胸が苦しいくらいキュンキュンした。


 あの時鈴々は、もうどうしようもないくらいに自覚してしまった。




 ──あたし、秋月っちのことが大好きだ。




 彼に好きだって言ってもらいたい。

 彼に可愛いって言ってもらいたい。

 彼にもっと褒めてもらいたい。


 そんな気持ちが、胸の奥から際限なくあふれて来る。


「ああっ、もうっ……明日から、どんな顔して秋月っちと接したらいいんだろぉ……」


 火照る頬を両手の手のひらで抑えて、くねくねと身体をねじって悶絶する鈴々だった。

 そしてふと、さっきみやびと話したことを思い出した。


『雄飛と自分達に交流があることを、明日学校で知らしめる』


 具体的にどうするか、さっき雅との別れ際に話し合ったのだ。

 その結果、明日教室での仲間内の雑談で、雄飛達と一緒にカフェに行った話をすることにした。


 元々声の大きな鈴々がその大役を担うことになった。

 皆で雑談をしている時に、鈴々がクラスの皆に聞こえるように大きな声でその話題を語り、それに雅が追随する。


 そういうプランだ。


 雄飛と学校でも周りを気にせず仲良するためには、これは大変重要なミッションである。

 そう思うと──


「うわぁ、あたしに上手くできるかなぁ……」


 話すことには自信がある鈴々も、プレッシャーで少々不安になるのであった。

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