第37話 スタートエンド・マルチ・バース⑤

67. 1月9日。1月27日。

68. 12月29日。2月4日。

69. 4月17日。7月11日。

70. 11月9日。4月7日。

71. 9月28日。8月3日。

72. 5月17日。10月26日。

73. 10月2日。6月21日。

74. 1月29日。2月7日。

75. 6月10日。11月30日。

76. 5月29日。12月27日。

77. 8月31日。6月1日。

78. 1月22日。7月14日。

79. 2月28日。11月19日。

80. 10月16日。7月12日。

81. 3月28日。4月22日。

82. 5月30日。1月14日。

83. 12月1日。12月19日。

84. 5月8日。8月4日。

85. 1月30日。7月27日。

86. 7月23日。11月24日。

87. 9月18日。3月14日。

88. 10月10日。2月22日。

89. 6月25日。2月3日。

90. 5月7日。6月7日。

91. 11月18日。4月4日。

92. 12月4日。1月19日。

93. 7月9日。9月24日。

 

 タイトルに「BIRTH」とある以上、誕生日がテーマのゲームなのだろうが、並べてしまえばただの数字だ。カードの日付を眺めながら、ふと「ウェズリーの誕生日はいつなのだろう」という疑問が首をもたげた。「全人類」を自称するウェズリーにとっては、毎日が誕生日なのだろうか? それともウェズリーが今使っている肉体の生まれた日?

 大地が取り留めもない事を考えている間にやってきた、第93戦目。ついにデミウルゴスの質問権が回ってきた。戦争でも数字当てでも劣勢のデミウルゴスはいよいよ追い詰められている。この一手が大きな分水嶺となることは誰の目にも明らかだった。

「3の倍数?」

「そうだね」

 即答するウェズリーにデミウルゴスは満足げにうなずく。特に攻め方は変えず、これまで通りに倍数で候補を減らし、既出を除くと残りは15個。候補は「1月5日」「1月20日」「2月10日」「3月30日」「5月25日」「6月15日」「6月30日」「7月5日」「7月20日」「8月25日」「9月15日」「10月20日」「11月10日」「12月15日」「12月30日」。

 ようやくイーブンの戦況に追いすがったが、ウェズリーと同様に30秒をいっぱいいっぱいに宣言し続けていくとすれば、あとは日付の運頼みだ。ここに来て、数字当てと言うよりも戦争に近い様相を呈しているのは偶然なのか、ゲームの設計思想なのか。

「1月20日」

 デミウルゴスの初めての宣言に、大地は「はて」と首をかしげた。てっきり最初は「1月5日」と宣言するとばかり思っていたからだ。おそらくウェズリーもそうだったのだろう。一拍遅れて「違うよ」と答える。

 ランダムに宣言したところでルール上は何ら問題ない。とはいえ、一体何を根拠に宣言しているのだろうか、と訝しく思っているとあっという間に両者の宣言合戦がやってくる。

「10月31日」とウェズリー。

「ぶっぶー」

「2月10日」とデミウルゴス。

「こっちも『ぶっぶー』、だね」

 ウェズリーは相変わらず機械的に宣言しているが、今度はデミウルゴスも候補のうちの浅い日付を宣言した。「1月5日」だけを飛ばす理由がわからず、大地は首をかしげたくなる。

 ウェズリーもデミウルゴスも表情こそ変えていないが、両者の額に浮かぶ汗が戦局の張り詰めた緊張を物語っていた。いまや、ノーガードの殴り合いの様相を呈している。敗北へのカウントダウンをされているデミウルゴスも、いつ負けるのか予想できないウェズリーもそれぞれに精神を摩耗させているに違いない。

 そして、いよいよそのときはやってきた。


94. 10月20日。5月18日。

95. 8月14日。9月21日。

96. 11月28日。8月9日。

97. 12月24日。4月19日。

98. 3月13日。1月20日。

99. 10月14日。12月20日。

100. 5月12日。6月22日。

101. 6月17日。2月12日。

102. 10月6日。10月12日。

103. 6月15日。2月8日。

104. 4月13日。7月5日。

105. 9月2日。3月3日。


 もはや得点は大事の前の小事と化していた。指先で触れれば切れてしまいそうなほどに緊張の糸が張り詰めているというのに、メトロノームが秒を刻むたびに、緊張の糸はさらに細く、鋭く張りつめていく。大地でさえ、走馬灯が見えそうな心境だった。理屈ではなく本能や第六感とでもいうべき感覚で、「終わり」が近いことを察知していた。それがグッドエンドかバッドエンドかには大地はあまり関心がない。どちらにせよ、最後まで見届けるだけだ。

「3月30日」

 ウェズリーの口から洩れたのは肯定でも否定でもなく「あぁ……」という、嘆息だけだった。その一言があまりにも明確に、如実に世界を終わらせることを決定づけている。

「どうして……」

 それは疑問というよりも理不尽への怒りを漏らしたかのような声色だったが、デミウルゴスは丁寧に答えた。

「お前の敗因は俺に敗北時間を教え続けたことだよ」

 そう言いながら手を振ると、二人の伏せカードがテーブル上で開示される。デミウルゴスは「3月30日」、そしてウェズリーは「11月3日」。あとほんの数秒後にウェズリーが宣言するはずだった正解は力なくテーブルに斃れている。

「そうだとしても、だ。どうして15個から正解を導き出せたんだ……」

 ウェズリーは悄然としつつも尋ねた。うなだれてはいるものの、思考を放棄したわけではないらしい。

「お前の機械的な宣言のおかげで、俺は敗北まで3回宣言することが出来ると分かっていた。つまり正答率は5分の1。これ以上にはしようがないけど、より「当たり」っぽさそうなのを選ぶくらいの努力は出来る。運よく、その努力が結実したってだけさ。やっぱり最後は運頼みだったよ」

「そういうことじゃない」

 ウェズリーは顔を上げてデミウルゴスをにらんだ。デミウルゴスは「焦るなよ」と答えてから説明を続ける。

「俺は最初のポカで手痛いカウンターを食らった。だが、成功体験はむしろお前にカウンターへの警戒心を強めさせたんだろう。最初の『素数か否か?』という問い以降は純粋な選択肢の半減しかしてこなかったし、宣言も純粋な日付順で俺が想像力を働かせる余地はなかった。実際、ほぼ負けてたよ、俺は」

 言いながら、デミウルゴスは自分の伏せカードである3月30日を手に取った。

「さて。大地くんは3の倍数を簡単に見分ける方法って知ってる?」

「全部の桁の数字を足した数字が3の倍数なら3で割り切れるってやつだろ?」 

「そう。『330』なら3+3+0は6だから、3で割り切れるって具合だね。……でも330ってそんな計算しなくてもパっと見で3の倍数だってわかるだろ?」

 ここまでの説明で大地にはおぼろげにデミウルゴスの作戦を理解することができた。

「あぁ……そうか。じゃあキミの最初の質問の目的は……」

 力なく呟くウェズリーの言葉をデミウルゴスが引き継ぐ。

「お前の『回答速度』を試すためだった。もし俺のカードが素数だったら、数学好きでもなきゃ即答は難しいだろ? 逆に即答できるなら、何かしらの倍数だと即断出来る数字ってことだ。……まぁ、結局カウンターを食らっていきなり形勢不利、完全に失策だったんだけど……」

「……ボクが日付順に宣言し始めた事で、自分の猶予時間がわかった?」

 苦しそうなウェズリーの言葉にデミウルゴスは「そういうこと」と頷いた。

「焦ったのは最初だけだったよ。あの段階でお前のカードは偶数か、5の倍数だろうと当たりをつけられたからね。

そして、続く『5の倍数』『3の倍数』にもお前は即答した。5の倍数はわかりやすいからいいとして、3の倍数には分かりにくいのもあるだろ? 例えば『5月25日』とか、1秒くらいは考える時間が必要そうなもんじゃないか?」

 デミウルゴスの言葉にピンときて、大地は思わず呟いた。

「なるほど、それでアンタは3の倍数と即断しにくい『1月5日』を飛ばしたのか」

「そうそう。さっきも言った通り、俺の宣言は3回しか出来なかった。だから思考なんて挟まなくても3の倍数だと解りそうな数字を順番に答えただけだよ」

 本当に運だな、と呆れそうになった。もしウェズリーが3桁~4桁の素数を暗記している数学マニアだったらどうする気だったんだ、と思う。

「キミを追い詰めるつもりで、ボク自身が袋小路に入ってしまった、か。寓話みたいな話だ。……悔しいな」

 ウェズリーはメッシュチェアに体重を預け、天井を仰いだ。彼の耳には今も続くメトロノームや得点板の音がさぞ耳障りに響いていることだろう。デミウルゴスは山札が切れるまでの残り時間を最後のモラトリアムとして使う心算のようだった。

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