第32話 星神デミウルゴス

「……なるほどな。あの日、こんなことがあったのか」

 7つの神を習合し、再臨した最も旧き神──星神デミウルゴスの第一声は深い悲しみに満ちていた。ウェルギリウスとして得た呪いも、ヴェリタスとして受けた呪いも、再臨の際に霧散し、今の彼──デミウルゴスには何の影響もない。だが、習合によって得たあらゆる情報が、まるで身体から活力を奪うかのように重くのしかかっていた。

「各ジャンルの有識者を6人創って困難を分割する、良い考えだと思ったんだがなぁ。まさか一人に戻るのがこんなにキツいとは……」 

 独り言ちながら、デミウルゴスは足取り重くナイトスケープの出入り口へと踵を返す。


 一方その頃──大地はナイトスケープの食堂でラーメンを啜っていた。神創人種は誰一人出勤していないため、食堂の器具を拝借して自分で作ったものだ。昏睡状態から目覚めて以来何も食べておらず、空腹が限界だったのである。外で世界の命運を分けるバトルが始まっていようと、どうせ神々のバトル展開に人間がついていけるでもない。さっさと腹ごしらえをすませておこう、という算段だった。

 大地がスープを最後の一滴まで飲み干すのと、ウェルギリウスが食堂に入って来るのはほとんど同時だった。

「遅くなったね、大地くん。じゃあ行こうか。ウェズリーとの最終決戦だ」

 ウェルギリウスの口調は淡々としているが、大地は違和感に眉根を寄せずにいられなかった。

「やけに急展開だな? それよりも、アンタ……本当にウェルギリウスなのか?」

 見た目も、言葉遣いにも何の変化もないが、雰囲気や纏っているオーラとでも呼ぶべきものは、ウェルギリウスとはまるで別人だった。ウェルギリウスが黒だとすると、今の彼は漆黒とでも言えば良いだろうか。

「へぇ。意外に鋭いね。お前も知ってるだろ? 俺はデミウルゴス。ウェルギリウスや他の夜を創り出した本物の造物主だよ」

 大地は無言で立ち上がると、空になった丼をトレーに乗せ、調理場へ向かう。水道の蛇口をひねり、冷たい水を丼に流しながら問いかけた。

「アンタ、ここを出ていくとき『あとでね』って言ったよな」

「言ったね」

「ウェルギリウスが勝とうが、ヴェリタスが勝とうが、最終的に出来上がるのは7柱の夜神の集合体であるデミウルゴスだから、また会うことになるって意味だったのか?」

 デミウルゴスは口元を綻ばせ、愉しげに笑った。

「アハハ! 察しがいいね。そういうことさ。俺を7等分して作った疑似神格──それ夜警議会(ナイツ・コンドミニアム)ってわけだ。もっとも、プロメテウスもニュクスも他の皆もオリジナルは存在するけどね。彼ら自身は二次創作(コピー)されてるって知らないけど」

 デミウルゴスは憑き物でも落ちたようにあっけらかんとしていた。出ていく前に浮かべていた沈鬱な表情など嘘だったかのような明るさだ。洗い物を済ませて、この世界への未練をなくした大地もまたあっけらかんと言う。

「最終決戦に行くのはいいが、どうやっていくんだ? 渡し守は今もぐっすりだから海を渡れないだろ」

 潜水艦の中では時間の感覚が麻痺するが今もまだ夜更けといっていい時間帯のはずだ。

「おいおい、俺、カミサマなんだよ? ワープでもトリップでも自由自在さ。……ほら、つかまって」

 差し出された手を取った瞬間、世界が軋みを上げて歪んだ。光が委縮し、色が逃げ出し、全てが一瞬にして闇に沈む──。

 それもほんの須臾の間にすぎず、電気がついたかのように明るくなったかと思えば、そこには全く別の風景が広がっていた。

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