第34話

『独りだと思わない方がいい』



なのにあの人の最後の言葉は

今も耳に残ったまま離れてくれない。



アタシの眼は、記憶をなくした。

大好きだったあの表情を

6年経った今、もうぼんやりとしか思い出せない。


だって卒業アルバムの中で微笑む先生は、彼ではない。



アタシが恋したのは"先生"じゃなく、

小さな狭いあの部屋の

あの窓辺に背を預けるあの人だった。






時が過ぎてゆくごとに

声の記憶さえ遠のいていった。


そうやって順番にあの人を忘れてゆくのが怖かった。



ふとした瞬間、涙が浮かぶたびに

必死になって思い出そうと脳を叩き起こした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る