第29話

「漢字は?」


「......え?」




ふたり、ずぶ濡れのまま沖に上がった。

砂まみれになった脚もいつもなら念入りに洗うけど今日ばかりは気にならなかった。



「名前の漢字は、どう書くの?」




赤いリュックを拾って、夜を歩く。

冷え切った風に吹かれながら風邪を引くのを覚悟した。




「センリって書いて、千里(ちさと)。」




きっと、僕が千里を見つけたのは偶然じゃなかった。

僕が君を助けたのは間違いじゃなかった。



今日、海へ来てよかった。




「蒼良くんは、」



「......え?」



「蒼良くんは私が"あおくん"って呼んでたの、どうしてだか分かってる?」



繋いだ手が少しずつ熱を取り戻していた。

ううん、と首を振ると、千里は小さく笑った。




「帰りの電車で見かけるたびに服も、リュックも、ブックカバーもしおりの色も、全部全部青だったから、青が好きなのかなって思ったから。」




当たってるでしょ?


そういって僕を見る瞳に、さっきまでの涙は消えていた。

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