第27話

家から10駅以上離れた場所へ通うなんてアホらしい選択をしたのは

数学教師になるためのはずだった。

県内で一番、教員採用者数が多い大学だと

担任に勧められたから言われたとおりに受験した。


それなのに、いつの間にかそんな夢は薄れていって、

時間が経てば経つほど、自分で自分が分からなくなる。

迷って、迷って、立ち止まっては、

右も左も分からないまま仕方なく歩き出す。

そんなやるせなく苦しい時間を忘れさせてくれるのがあの帰り道だった。


ひとりじゃない、誰かと。

他の誰でもないこの人が隣に座る各駅停車に揺られる時間だった。



「......どこに?どこに帰るの。帰る場所なんてないよ。」


「僕が作る。僕が、居場所になるから。」



こんな格好つけた言葉でしか気を引けないのが情けなくて仕方がない。

だけど、こうするほかなかった。


ぼんやりとしていたはずのこの気持ちの名前のつけ方を今この瞬間、やっと気づいたのに。




「だから一緒にいてよ。」




たった二文字だとしても、口にすることは許されない。

今も僕の胸の中で震えるこの人が、瞳の奥で見ている誰かに囚われたままだから。




「ねえ、チサト。」

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