煙の中

第13話

それからしばらくの間、彼女を見かけることはなかった。


結局名前も知らないままなわけだし、二度と会えなくなることぐらい想定していたつもりだったけれど、ぽっかり開いた心の穴は思った以上に大きかった。



ひとりで揺られる電車も昔は好きだったはずなのに

どこか物足りなくて寂しい感じがする。

いつものように推理小説を読んでも、頭はすぐに別のところへ行った。



それを連れ戻しては、また迷子になって、

そんなことを繰り返しているうちに最寄駅につくような

あまりにも情けない日々だった。




あの人が口にする『こんにちは』を待ち望んでいた。

期待すればするほど、現実はうまくいかない。

顔が見たくても手がかりがひとつもないことを知って

初めて、彼女が自分の話をしなかった理由が分かった気がした。



彼女の中の僕は最初から最後まできっと、

いつだって都合よく切り捨てられる"友達未満"だった。

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