観察

 薬術の魔女は、くるくるとよく働く。


 客を捌きながら、魔術師の男は流し目で彼女の様子を確認していた。


「ありがとうございますー!」


 商品を買い上げた客に、彼女は小さく手を振っている。

 笑顔で接客をしているが、作り笑いではないらしい。つまり、薬売りを心の底から楽しんでいる、と言うことか。


「(……彼女は善性が強い質らしい)」


そう実感する。


「(かえって、私は——)」


考えると、思考を放棄したくなる。

 大抵の人間等、少なからず悪意は持っているものだ。元から持ち合わせている者も当然居るが、後天的に獲得した者も居る。でなければ、心を保てなかった者も居ただろう。


 ふと、不思議な予感を覚え、視線を動かした。


「(……あの客は)」


どこかそわそわと落ち着きがなく、不審な動きをしている。


 残念ながら、世の中は善意で満ちていない。そう、思い知らされた気がした。


 薬術の魔女に気付かれぬように、小さく魔術を発動させる。目を付けた客が驚いたように手を引っ込め、周囲を見回した。、敢えて分かりやすくその客を見つめる。

 目が合い、にこ、と笑みを見せてやると。その客は慌てた様子で足早に去っていった。ちら、と薬術の魔女の方へ視線を向けるも、彼女は気付いていない様子だ。それでいいだろう、と小さく息を吐き視線をずらした。


 白き天の神が善性を司るが、彼の神がおわす天は人間達からやや遠い場所にある。逆に、悪意を司る黒き地の神がおわす地は人間達のすぐ側にあった。ゆえに、人間は悪意に染まりやすいとされている。


「(当然、天罰神足る白き神は……数多の目を持つ故に罪人へは罰を下すと言うが)」


罪をとがめこそすれど、罪を起こす前の行動には関与しない。だから、軽犯罪は起こる。罪人はやがて罰せられるとはいえ。


 子供のうちは、まだ善性が強い。長く生きているうちに、地の神の影響を受けて罪を犯しやすくなるのだそうだ。


「(……彼女の善性は、いつまで持つだろうか)」


 薬術の魔女は『魔女』である。つまり、魔女の守護者である地の神の影響を通常の者より強く受けやすい……と考えられる。

 事実、『魔女』の名を関する者は所属する国の監視下に置かれているし、罪を犯す場合が多い。

 そうならば、彼女も『魔女』ならばいつの日か悪意に染まって罪を犯すのだろうか。


「ありがとうございましたー!」


 客を見送り、にこにこと屈託のない笑顔で薬術の魔女は手を振っている。


 彼女の善性が、永く持てば良い。そう、らしくもなく小さく願った。

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