学芸祭巡り。
「ね、学芸祭回ってみよ?」
薬術の魔女が提案し、それを魔術師の男は拒まなかったので二人は一緒に学芸祭を回ることにした。
学芸祭一色で染まった魔術アカデミーは、どこも楽しそうな喧騒で溢れている。
「
歩き始めた薬術の魔女へ、至極冷静に魔術師の男は指摘した。猫のような手で器用に薬術の魔女の袖を掴み、動きを制限する。掴まれた袖を一瞬見、薬術の魔女は魔術師の男の顔を見た。
「そうだなー」
言いながら、薬術の魔女は
「メイドカフェとか、わたしは興味ないけど。きみは?」
「興味は無いですね」
「わかった。じゃあ、射的とか遊ぶやつを中心に回ろうよ。ご飯とかは普通の屋台でも大丈夫?」
「えぇ、構いやしませぬ。御自由に」
言いつつ、魔術師の男が視線を横にずらした。袖から手を放してくれる。
「そういうのが困っちゃうんだよなぁ」
どうせ興味ないんだろうなぁ、と内心でぼやきながら薬術の魔女は
「最も効率の良い道順は
そう言い、魔術師の男が(猫の手で)道順を示してくれる。肉球が柔らかそうだな、と一瞬
「ふーん、ありがと。寄り道する?」
「御自由に。貴女がしたいの成らば、なさってくださいまし」
「むーん」
学芸祭自体に興味なさそうだな、と薬術の魔女は確信を持つ。それは視察の魔術師としてどうなのだろうか。未来の同僚を探しに魔術アカデミーに来ているのではなかったのか。
ともかく、
まず薬術の魔女が目を付けたのは射的だ。参加費用を払い、薬術の魔女は空気銃を手に取る。
「ふむ、こんな感じか」
銃を眺め呟きつつ、弾を込めた。狙い、撃つと
「意外と上手ですね」
「まあね。狩りとかやってたから」
「狩り、ですか」
「きみもやる?」
「……では、一度だけ」
呟き、魔術師の男も空気銃を手に取る。軽く、魔術をはじく術式がかけられている様だった。「(此の程度、平易に破れますが)」内心で呟きつつも、野暮だろうとそのまま弾を込める。
「わ、綺麗に重心に当てた」
「……重心だと、判りましたか」
驚き目を丸くした薬術の魔女に、魔術師の男は感心した。
「うん。だって、狩りとかで確認するもん」
「然様ですか」
先ほど薬術の魔女が告げた『狩り』はただのお遊びではなさそうだな、と魔術師の男は察する。
「上手みたいだし、もっと撃ってよー」
と薬術の魔女がねだったので、「仕方無いですね」と魔術師の男は空気銃を的に向けた。
「結構取れたねぇ」
「まあ、仕組みは単純ですからね」
魔術師の男は、受け取った景品を薬術の魔女に譲った。景品はお菓子だったので問題はないだろう。彼女自身も「ありがとう」と受け取っていた。
次に向かったのは、お化け屋敷。
「面白そうでしょ!」
「子供だましでしょう」
ましてや、学生の作ったものである。魔術師の男は平然としていたが。
「わぎゃっ!」
「……」
薬術の魔女が、お化け屋敷の挙動に一々驚き飛び上がり引っ付いてくるのだった。
「(おまけに魔力を漏らしよる……)」
驚く度に、だ。大層な量ではないので構いやしないのだが、魔力の相性が良い魔術師の男からすると微妙に困るものだった。なんだかくすぐったいような、小さな刺激を受けるのだから。
「びっくりしたねぇ」
「……然様でしたか」
なぜか、彼は疲れた心地になる。
「展示だって」
くいくい、と薬術の魔女に袖を引っ張られて、魔術師の男はそれに従い移動した。
「まあ、良く研究されていると思いますよ」
展示されている研究の結果達を眺め、魔術師の男は感想を口にする。
「ほんとにそう思ってる?」
首を傾げた薬術の魔女を、魔術師の男は平然と見下ろした。
「本業
「ふーん」
それからいくつかの展示を回り、薬術の魔女に意見を求められた際に魔術師の男は当たり障りのない返答をする。それでも良かったらしく、彼女はどこか楽しそうだった。
彼女が楽しそうだと、何となく心地良い。
それを自覚し、魔術師の男は思考を止めた。違和感を覚えたのか「どうしたの?」と問いかける薬術の魔女の顔を見れず、「……何も」と答えつつ彼は視線を横にずらす。
「あれ、衣装の貸し出しだって」
「既に仮装している身で、
「うーん、それもそっか」
衣装貸し出しについては流石に遠慮させてもらった。そもそも、薬術の魔女自身が全身が魔力の放出器官で、肌が繊細なのだから借り物の服で肌を傷めるだろうと魔術師の男は思っての事だった。
「こんなかんじなんだねぇ」
「ふむ。まあ、学生の出し物ですからね」
学生や来場者達で賑やかな廊下を歩き、薬術の魔女は学芸祭の感想を呟く。魔術師の男は普段と変わらない様子だったが、薬術の魔女はそれでも構わなかった。
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