決闘

「びびらずに来たな」


 魔術師の男が決闘の場に着くと、先に待っていたらしい転生者が腕を組んだままで声を掛けた。その声には既に勝ちを確信しているような気配がある。


「……何をおそれる必要が?」


訊き返しながら、魔術師の男は周囲の気配へ感覚を研ぎ澄ませて何か余計な仕掛けが仕掛けられていないかを確認していた。生憎、何もないらしい。勇者たる転生者殿はきちんと正々堂々と決闘をしてくれるらしい、と魔術師の男は思考する。


「俺とお前の実力差に、な」


傲慢な態度はどうかと思うが、それなりに実力は積んできたのだろう。正々堂々と決闘を行うつもりなら、それを無碍むげにするのは失礼だろうと魔術師の男は転生者を見た。


「……まあ。確かにただ仔鼠こねずみ猫魈びょうしょう……魔猫まびょう程の差が有りますが」


ため息混じりに、魔術師の男は言葉を零す。それを聞き、転生者は一瞬苛ついた様子を見せたが、すぐに余裕そうな表情に戻った。


「それは、俺が『魔猫』って事で良いんだな?」


「……まさか」


僅かに目を細め、魔術師の男は小さく笑う。自身の瞳孔が開くのが判った。


×


 堂々としていて自信満々なその1と、ゆったりと佇む魔術師の男。周囲の声が騒がしく、何を会話しているのかは不明だが、あまり楽しいものではないだろうと予想はつく。

 薬術の魔女はさりげなく二人の様子を確認した。二人共にリラックスと緊張の間のような様子らしい。ただ、魔術師の男の方がどこか慣れているような気配を感じる。


「(決闘、したことがあるのかなぁ?)」


薬術の魔女は、なんとなしに思考した。


〈それでは、決闘のルールを再確認します〉


 と、音響用の魔道具を持った学生が仕切り始めた。よく見るとかなり本格的な音響用の魔道具である。高そう、とかなり陳腐な感想を抱いた。


「あれ誰?」


「親衛隊の一人で、大体ああいう転入生絡みの勝負事に出張でばって進行と審判してる子」


薬術の魔女が隣に座る友人Aに問うと、やや呆れ混じりで答えてくれる。


「へー」


「……興味なさそうね」


×


 決闘の始めは、魔力さえあれば誰でも無詠唱で放てる魔弾をぶつけ合う、撃ち合わせだ。

 二回、任意のタイミングで魔弾を撃ち合い、三度目の魔弾がぶつかった瞬間から本当の決闘が始まる。


〈1!〉

「はぁっ!」

「……」


 一定の距離に離れた二人は小型の杖を振るう。お互いが放った魔弾は大体二人の中間地点でぶつかり、弾けた。


「……互角、だな」


「同威力なだけしょう」


 ふん、とその1はどこか上から目線で言い捨てる。それに対し、魔術師の男は普段のように落ち着いた様子だ。


 決闘では、これで大まかな相手の強さを知ることができる。このタイミングで実力差を思い知り、降参することもあるらしい。


〈2!〉

「はっ!」

「……」


 やや強めに放たれた魔弾は、やや魔術師の男の側で弾けた。


「……ふん、どうだ?」


「…………勝ち誇るに尚早では」


既に勝ち誇った様子のその1に、魔術師の男は冷ややかに返す。


〈3!〉

「はっ!」

「……」


 放った魔弾が突如その1の


「ぐっ?!」


その1が後方に吹き飛び土埃が舞う。


 そして。


「……『勝負有り』、ではないのですか」


 土埃が少し収まったその場所には、地面に横たわるその1と、その側にしゃがみ、額へ小型の杖の先を当てた魔術師の男がいた。


×


 あっさりとその1が負けた。

 そうだろうな、と薬術の魔女はなんとなく感じていたが、これほどまでに早く決着がつくとは思いもしていなかった。


「はっ?! え、この流れだと、俺が勝つやつじゃ……」


その1は目を白黒させ、とても混乱している様子だった。自身が勝つのだと信じて疑っていなかったのだろう。


「はて……一体何処にの様な流れが在りましたかな」


 口元へ優雅に手をり、魔術師の男は冷笑する。冷笑するも、その中には嘲りや侮りの感情は含まれておらず警戒が僅かに混ざっていた。


「な、何故だ……他の魔術師達には勝てていたはずなのに……!」


戸惑うその1に、魔術師の男は言い捨てる。


「……数名の、視察の魔術師に勝利しただけの癖に思い上がりもはなはだしい。れに、わたくし魔術師とは違いますゆえ


 実はこの魔術アカデミー内では、学生と教授以外は魔術の行使が難しくなる効果がかけられているのだ。


。唯の学生如きに遅れを取る等有るものか」


「……くっ!」


 その1は、悔しそうに顔を歪める。


「処で。貴方が敗北した際の指定……されておりませんでしたね」


「……近付くな、っていうのか」


「まさか。


 にこやかに笑みを浮かべた魔術師の男は、握手をするように手を差し伸べ、


「……」


不機嫌そうな顔をしながらもその1はその手を掴む。


「私が唯一言える事は――」


健闘を称えるように、憮然としたその1を引き寄せ


「『二度目はない』。……ただれだけで御座います」


 ぽん、とその背を軽く叩いた直後、その1は脱力したようにへたり込む。

 魔術を放たずに、手の表面に魔力の一部を込めた威嚇を行っただけだ。


「では」


 そして、その1を置いて魔術師の男は会場から去った。

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