いつのまにか賞品にされる。

「明日なんて来なかったなー。あー」


 薬草園で薬草弁当をもしゃもしゃしみつつ溜息を吐く。今日も魔術師の男はずっと人に囲まれていたのだ。


「なんだよー。友達いなさそうな性格してんのにさー」


ぼやきつつ、彼の性格を思い出してみる。ちょっと上から目線で、やや高圧的で、どこか皮肉っぽい。普通の友達は居ないだろうと薬術の魔女は頷く。ただ、対人用の表の性格は人当たりが良さそうなので、知り合いなら多いんだろうなとは思った。


 学生会副会長は勧誘を諦めたようだし、その1はさっきその3に絡まれていたのでしばらくは誰も来ない。はずだ。


「最近のうら若き女性は……随分と大きな独り言をおっしゃるのですね」


「うわっ?!」


 薬草園の物陰から魔術師の男がぬっと姿を現した。近づいた音も気配も全くなく、本当に唐突に現れたかと思える。だが、魔術を使ったような雰囲気もない。


「な、なんでここに……?」


 非常に速くなった鼓動を抑えるように胸を押さえ、薬術の魔女は魔術師の男に問いかける。だがやはり、顔が良い。顔だけで好かれることも多いんだろうな、となんとなしに思った。


「何やら、私奴わたくしめに用事のある御様子だったので。……見つかり難い尾行の仕方、教えて差し上げましょうか?」


 色々とばれていた。というかそんなもの教えて欲しいとは言っていない。


「えっ、見つかりにくい尾行の仕方教えてくれるの?!」


 言ってはいないが興味があるので食い付く薬術の魔女だった。


「……本題は何でしょうか」


 教えてくれなかった。


×


「こ、今度、学芸祭があるんだけどさ」


「……はい。存じ上げておりますが」


 せっかく二人きりになれる状況になったので、薬術の魔女は思い切って声をかけてみることにした。しかしなぜか、緊張して薬術の魔女は言葉を詰まらせる。やけに高鳴る心臓を、きゅっと手で抑えて小さく息を吐いた。


「わたし、いつも作った薬売ってるの。あ、もちろん安全なやつ!」


「危険物を取り扱っているのならば……其れは其れで面白い事になりそうですがね」


 涼しい顔の魔術師の男の様子に、何かを早まってしまったかもしれないと後悔が首をもたげ始める。目線が合うも、彼は普段通りに見えた。思わず視線を逸らし、徐々に顔が下を向いてしまう。


「……あと、他にもアカデミー生の研究発表や展示会とか、色々な出店とかあって、楽しいよ」


「然様で」


 淡白に頷く様子が興味がないように見え、


「別に、忙しいなら来なくてもいいよ」


と、不安そうに薬術の魔女は魔術師の男をうかがい見る。魔術師の男は口元に手を当て、少し考えるような仕草をしてから


「……折角なので行きましょう」


柔らかく微笑み、そう答えた。


「え、本当?」


予想外の言葉に薬術の魔女は弾かれたように顔を上げる。彼は薄く微笑んでおり、ちゃんと来てくれるのだと不思議な確信を薬術の魔女は持った。


「貴女が生成し、販売しているという薬品に興味があります」


「そっち?」いやまあそれはそれで嬉しいけどさ。


 魔術師の男の返答に、心臓が暖かくなるような心地になる薬術の魔女だった。


 だが。


「おい、そこのお前!」


 その1が会話に割り込んだ。


「……わたくしの事、でしょうか」


「そうだ! お前以外に誰がいる」


 ゆったりと首を傾げる魔術師の男をビシッと指し、その1は頷く。そして、その1は珍しくも着けていた手袋を抜く。


「学芸祭では武闘大会もあり、その会場……のグラウンドでアカデミー生以外にも、例外的に私闘が許されていると聞いた。そこで、お前に勝負を挑む!」


 そして、手袋を地面に叩きつけ


「決闘だ!」


そう、高らかに宣言をした。実に堂々とした宣戦布告だ。


「負けたら、そこの女学生には、近付くな!」


「……然様で。能力増長の力添えが出来るとは、光栄で御座いますよ」


 にこ、と微笑み、魔術師の男は勿体つけるように、ゆっくりと手袋を拾い上げる。手袋を拾った、つまりその決闘を受けたことに満足したのか、その1は


「絶対に、お前を助けてやるからな」


 と、魔術師の男から手袋を受け取りつつ、薬術の魔女に笑顔で宣言した。薬術の魔女が眉間に僅かにしわを寄せているのも気づかぬまま。魔術師の男は柔和な微笑みのまま表情は変わっていない。


「……処で、日付と具体的な場所の指定を提示して頂いても?」


「おっと、そうだった。……そうだな。場所は××の辺りで、時間は2限目の開始時間と同時に開始する。遅れたら棄権と扱われ、不戦敗だ」


「……成程」


「使用可能な武器は、小型の杖だけだ。良いな?」


×


「……ということになりましたので」


 その1が去ってからややあって、魔術師の男は薬術の魔女を見下ろす。周囲に誰の気配もないからか、『面倒で仕方がない』と言いたげな顔だ。その顔を見て、魔術師の男は薬術の魔女の前では取り繕うつもりは無いらしい、と思考する。


「うん。じゃあ、あんまり回れない感じ?」


「……さて如何どうなのでしょうね」


 魔術師の男の、急な予定変更を気にしていない様子や残念がっていない様子に、先ほどと打って変わりなんとなくつまらなく思う薬術の魔女だった。

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