さりげない擁護。

抑々そもそも、最も信用ならぬとされる視覚情報等、何の証拠にも成りませぬ」


 店員が居なくなった後、魔術師の男はそう言い捨てた。柔和な笑顔で。心なしか、言葉に棘を感じる。


「(……ちょっと怖いなぁ)」


と思いつつ、薬術の魔女は二人の様子を大人しく見ている。若干の他人事感があるのは、その1が薬術の魔女を可哀想な被害者だと決めつけている節があるからだろうか。


「俺は、『真実を見通す目』を持っている!」


「……成程なるほど


 ややキメ顔のその1に対し、魔術師の男はにこやかに頷く。普通の人なら『コイツ頭おかしいぞ』と思うような内容でも、やはり表情は崩れないようだ。


「して。の証明は如何どうなさるので」


 『先ずはその目の証明を見せろ』、ということのようだ。納得していない様子の魔術師の男に、その1は少し狼狽うろたえる。薬術の魔女に告げた時にはあっさりと受け入れられた(かのような態度だった)からだろう。

 魔術師の男の態度は、『邪眼』『魔眼』『心眼』等も、一般的には御伽噺として実在しないとされているから当然の対応だろうと、薬術の魔女は思考する。


「嘘も、魔法も見破れる!」


「そのくらい、少し魔術をかじった程度の幼児でも出来ますよ。……ああ、有り難う御座います」


 丁度、店員がドリンクを三つ持って来たようで、魔術師の男の元にアイスティーが運ばれた。


「ハーブティーはこっち!」


 と、薬術の魔女は手を挙げ、青い液体を受け取る。そして、残った液体がその1の元に運ばれた。


「……なんだこれ」


「『フレーバーソーダ』だよ」


 非常に真っ黒なその液体は、店によってやや味の変わる、色々なフレーバーの混ざった炭酸飲料だ。一口飲み、


「……コーラじゃねぇか」


その1が呟く。


「フレーバーソーダだよ」


×


「んー、美味しい。お口の中が爽やか!」


 青い液体を飲み、薬術の魔女は、ほう、と息を吐く。さり気無く魔術師の男が去って行く店員に料金を渡しているのを見たので、おごってくれたらしいことを悟る。ラッキー。


「……その青色、なんだよ」


 気付いていないらしいその1は不気味なものを見るように、驚くほどに真っ青な液体を見る。


「花の色だよ。加熱しすぎると色落ちちゃうけど」


 天然素材で身体にも優しい。有毒な植物だともっと綺麗な青色出るけれど。と思いながら、薬術の魔女は、いつのまにか(その1の一方的な)言い合いが止んでいたことに気付く。……まさか、これを狙って……?


「では、そろそろ行きましょうか。『薬術の魔女』殿」


 魔術師の男は立ち上がり、薬術の魔女の手を取る。


「へっ、どこに?」


「寮ですよ。御帰宅の最中だったのでしょう」


「まあ、そうだけど」


「ちょっと待て、まだ俺の話は終わって「きちんと証拠を揃えてからにして下さいまし。わたくし其処そこまで暇では無いので。ああ、料金にきましては支払い済みなのでお気になさらず。では」


答えると、慌ててその1が声をあげるが、言い切らせる事も無く魔術師の男はさっさと言い捨てて薬術の魔女を連れて店から出た。


 そして、一瞬で魔術アカデミーの裏門の前に着いた。


「うわ、早っ」


移動の魔術はかなり面倒な術式が必要だったはずだが、見上げる魔術師の男はなんでもないと言いた気な澄ました顔だ。


「……なんで、さっきあそこに居たの?」


 聞きそびれた疑問を問う。


「占いの結果をずらした後始末をしに参っただけです」


「……ずらした、後始末?」


 今朝のおまじないの影響、ということだろうか。


「ええ、まあ。……多分、これで問題は無いとは思うのですが」


「なんか不穏」


 考えるように視線を動かし、魔術師の男は薬術の魔女に小さな札を渡す。


「まあ、階段からの転落と火傷にはお気を付けて下され。日が沈むまでれを持ち、く室内に居る事です」


「なんか良くわかんないけど、はーい」


「宜しい。では」


 薬術の魔女の返答に頷き、魔術師の男は居なくなった。


×


「ふー、さっぱりした!」


 汗を水で流し、薬草についた土を洗い落とし、薬術の魔女は今朝採った薬草と山菜達の後処理を始める。

 今回は、処置が遅れて大変なことになる薬草は無かったものの、結構時間を取られてしまった事が嘆かれる。

 あの時、その1などに会わなければ……。と、考えてもしょうがない。気を取り直し、薬術の魔女は処置の続きを行う。


「よし、これでいいか」


 束にした薬草を紐で縛り、それを室内に張り巡らせた紐にるして干す。また、いくつかの薬草は冷蔵庫や冷凍庫の中に眠らせた。これでしばらくは薬草(と、ついでに山菜)には困らない。


「では、いよいよ本命……」


 にっと笑い、薬術の魔女は薬鍋やすりこぎ、ナイフなどの薬品生成の道具達を並べる。


「ふんふーん、今日は痺れ薬作っちゃうぞー」


 袖をまくり、上機嫌に作業に取りかかった。


×


「うわ、あっつ!」


 脊髄反射で動いた手にふーふーと息をかける。魔術師の男に言われたので十分に火傷に気を付けていたつもりだったが、弾けた液体の飛沫など避けようがない。


「……これが『火傷』なのかなぁ……」


 流水で冷やしつつ、魔術師の男の言葉を思い出す。実際、熱した薬品を溢しかけたり熱された道具が身体に当たりそうになったりと少し危ない目には遭ったが、大事には至っていなかった。


「…………お守りの効果?」


 それでも結局は火傷(っぽい感じのもの)を負う運命は変わらなかった、ということだろうか。赤くなっているものの、跡は残らなそうだ。

 そして夕方、小さな段差につまずいた。


「うわっとっと、」


 けんけんと数歩前に片足で進んで、壁に手を突く。


「……あぶなかった」


捻挫などはしなかった。……だが、


「……なんだ。カーペットの段差じゃん」


 階段じゃないじゃん、と内心で突っ込んだ。

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