補助

〈学芸祭1日目の終了の時刻です。忘れ物に気を付けましょう〉


 音楽と共にそのような校内放送が流れ、一般公開の終了時刻となった。


「今日は色々あったねー」


 言いながら薬術の魔女は伸びをする。手元にはたくさんの景品や購入した商品などの入った袋を提げていた。


「……そうですね」


 抑揚の少ない声で魔術師の男は相槌を打つ。とは言っても外で決闘を行い、飾られた校舎内を巡っただけだ。

 しかし、こんなにも長時間、二人が共に居たのは初めてだった。


「明日もおいでよ! あ、暇だったらでいいんだけど」


 と、薬術の魔女は提案すると、


「……ふむ。貴女の店の様子を見られなかったので、折角なので行きましょう」


そう、魔術師の男は返した。

 どうせ監視の仕事の関係上、明日も明後日も学芸祭へ行く羽目になるのならば誘われた方が怪しまれる事も無いだろうと判断したからだ。


「(『興味が有る』等と、の様な理由では決して、)」


×


 薬術の魔女を寮の入り口付近まで送り、魔術師の男は宮廷へと戻るために少し歩く。歩きながら、今日の出来事を振り返った。


 卒業以来、久し振りに戻った魔術アカデミーはあまり校舎自体には変化がなく、そして授業形態や指導内容は随分と変化していた。

 たったの6年で意外と変わるものだと、魔術師の男は内心で関心する。

 アカデミーを去った者や残留したままの者、新しく入った者。教師の姿を見るだけでも、時の流れを感じた。

 それが、魔術師の男が視察に訪問したばかりの時の印象だった。


「……(……随分と、に成ったものだ)」


 学芸祭の様子でいだいた感想は、まずはそれだった。魔術師の男が魔術アカデミーに在学していた頃は、学芸祭はもう少し儀式の意味合いが強いものだった、と思う。


「……(しかし。此の変わり様に、『昔はこうだった』『正しくはこうだった』だのと口を出すのは野暮と言うもの)」


 言う気も更々さらさらない。

 そして、この学芸祭では身分の差を感じる事があまりなかった。

 貴族の学生達が庶民の学生との作った物を食べ、場合によっては貴族の学生が庶民に食事を提供する。

 貴族と庶民が、同じ目線になり、同じものを食べている。


「(……実に珍しいと、思ったものだが)」


 それだけ、庶民と貴族の距離が近くなったのだろうか。……だが、


「(……果たして、れは『良き事』と、言えるのでしょうか)」


 自身が貴族だから庶民と距離を近付くのが嫌だ、と言う訳ではない。貴族であることに誇りを持つ者が、貴族を毛嫌いしている者が、どう思うか。


「(……まあ。私にどうこう出来る話でも有るまい)」


 小さく、息を吐いた。


「……」


 婚約者の、薬術の魔女。彼女はあまり、身分に引け目を感じていなさそうだ。

 その事に、魔術師の男自身が安堵している。


×


 そして、学芸祭の2日目を迎えた。


 目が醒めると魔術師の男は身支度を素早く整え、日課の卜占ぼくせんを行う。

 1日の主な運命を予め知っておくことで、最悪の事態を回避するためだ。また、毎日決まった時刻に同様の方法で同様に行い続けることで、術の効果を高める役割をも果たす。


「……ふむ」


 ついでに薬術の魔女についても占うと、悪い事は起こらないようだが『商売繁盛』と出た。


「……を貸す必要が有りましょうか」

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