2日目

第35話

 朝。

「んじゃ、おばちゃん。世話になった」

 いろいろと荷物が入ったリュックを背中に、ナーナが女将にいう。

「いいのよ。世話になったって言っても一日だけでしょう? またいらっしゃい」

「いや、また来るし。だってリンを置いていくんだぞ?」

「それもそうね」

 あはは、と笑う女将と、何も気にせず――いや、気にしないように笑うナーナ。

「本当にありがとうございました」

 花梨と大将はそんな女将に向かって頭を下げる。

「リンについても預かってくださり、ありがとうございます。世話代は、親父――父の方から払わせてもらえるよう、お伝えしましたので、どうぞお使いください」

「いいのよ、そういうのは」

「でしたら生活費にでもしてください」

「でも……」

「お願いします」

 花梨は頭を下げる。

 カでこんなことが起きているなんて知らなかった。せめて、その罪滅ぼしだけでも、そんなの、比べ物にならなくらい小さなものだけれども、しておきたかった。だから花梨は、頭を下げる。

 このときは、自分の立場を利用したくないと思った。

「……考えておくわ」女将はそういって笑う。「じゃあ、行ってらっしゃい。中央山でしょう? 気をつけてね」

「はい」

 三人は堅く頷く。

「じゃあねー!」

 女将は三人が登山口に着くまでその後ろ姿を見送ってくれていた。

「いい人だね」

「まあな」

 さてと、とナーナはリュックを下ろす。

「なにすんの?」

「ロープとか金具とか、取り出しておくんだよ。マジで最初の一日の山登りは歩きを止めることはできねえからな」

「そっか……」

 昨日、仙人の試験を受けるための山だと言っていた。

 花梨もリュックからあらかじめ入れておいた――というか、二人に無理やり詰め込まれたロープや金具を取り出して、装備しておく。

「んじゃ行くかー」

 ナーナのあとに続いて中央山に入っていく。

「ナーナは中央山に行ったことはあるんですか?」

「んや、ない。大将は?」

「ないですね」

 三人とも未経験者のようだ。花梨は心配になってくる。

「ねえ、本当に大丈夫? 罠とかさ……」

「なんか看板があるらしいですよ」

「え?」

「あ、それあたしも聞いた。『これは罠なり』っていう看板が立ってるって」

「なにそれ……」

「ていうか花梨が知らないの意外だな」

「ですね。中央山に『たから』があると知った人たちが登っていって、罠にはまって死んでって、一時期人口減少が激しかったんですよ」

「そうそう。で、王が看板を立てるよう命じたっていうやつ」

「全部初耳なんだけど」

 一言ぐらい言っておけよ、親父め。

 そう、花梨は心の中で毒づく。――と。

「ほーら、あったぞー」

 ナーナが指さしたその先には、

 『これは罠なり』

 という看板が。

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