第16話

「お待たせしました」

 と、スタッフが来る。

「半額としてご案内いたします。どうぞこちらへ」

「なんで半額なの?」

「カードだよ」

 花梨はついさっき、スタッフに返してもらったカードを二人に見せる。

「なるほど……、国王だからというわけなんですね」

「ま、そういうことだね」

 大将は関心したように言う。

 三人はスタッフのあとに続いて階段を上る。

「階段キッツ……」

「すみません。皆様の部屋は三階となっておりますので」

「一番高くて何階なんだ?」

「五階でございますが、三階が一番眺めがいいんです」

「へー」

 自分から訊いたというのに、ナーナは興味がないように相槌をうった。でもスタッフは慣れているのか、顔色一つ変えない。

「こちらです」

 部屋についた頃には、ナーナはもう肩で息をしていた。

「ナーナ、大丈夫?」

「大丈夫じゃねえよ……。なんで花梨は息があがってねえの?」

「だって王宮の廊下長いし」

「うっわ……」

 でもナーナも泥棒ならそれなりの体力はあるはずだけど。と、花梨は心の中でひっそり思う。

「この部屋はこの宿で一番眺めのいい部屋です。馬車にありましたコドリは、小屋の中にいます。では、ごゆっくりどうぞ」

 スタッフが見えなくなってから、三人は部屋に入る。

「広いな……。こんな宿、人生始めてだ……」

「広いかな? ふつうだと思うけど」

「国王さまだからじゃないでしょうか……?」

 花梨は荷物を、ドン、と置いて椅子に座る。

「あー、疲れたぁー」

「そうか? まあ、お嬢様には慣れないことだったもんな」

「いちいちうるさい」

 ナーナは花梨の言葉を気にせずに、荷物を花梨の隣において、ベッドにダイブする。

「ちょっと、シワがついちゃうじゃん!」

「んなこと配慮できっか。あたしも今日は疲れた。寝る」

 静かな部屋に、ナーナの寝息だけが聞こえる。

「大将は……?」

「もう少ししてから眠ります」

「じゃあうちも、お先に。おやすみ」

「おやすみなさい」

 大将にペコリと頭を下げて、花梨は一番端のベッドに横になる。真ん中はナーナが陣とってしまった。

 ――お風呂に入らないと。

 今更そんな後悔が思い浮かぶが、ベッドで横になってしまった花梨には、起き上がる気力はもうない。

 そのまま深い眠りについた。

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