第18話 MotoGP 第16戦 サンマリノ
桃佳は澄江さんの運転でイタリア北部のミサノサーキットにやってきた。桃佳にとっては3度目のサーキットだ。サンマリノは小国なので、サーキットは存在しない。近くのミサノサーキットを使って、サンマリノGPとうたっている。かつて1国1GPの原則があり、レース好きのイタリア人が2度見たいということで、サンマリノの国名を借用したというのが発端らしい。サンマリノにしても国名をアピールできるいいチャンスと言える。
予選はQ1からとなった。KT社勢はスペンサーJr.だけがQ2に進出したのみで、あとの3人は不調である。こういう直線が短いテクニックの必要なサーキットをKT社勢は苦手としている。
サーキットの長さはおよそ4200m。GPの中では短い方のサーキットだ。スタートしてすぐに右・左とシケイン状のコーナーが続く。第3コーナーはゆるい右の90度コーナー、そして最初の勝負どころである右の第4コーナー。ここで転倒するケースが結構多い。すぐに右の第5コーナーと左の第6コーナーがやってくる。マシンの切り替えが難しい。そしてバックストレート。といってもやや左に曲がっている。次にV字の左第8コーナー。ここも勝負どころだ。そこからは右のヘアピン。9コーナーと10コーナーと右コーナーが続き、ここからは大きなR(半径)の右コーナーが続く。11~13コーナーの先にきつい右の14コーナーがある。右コーナーが多いので、タイヤには厳しいサーキットだ。15と16は左コーナー。右コーナーが続いてからの左コーナーなので転倒するマシンが多いところだ。その後がメインストレートだ。最終コーナーから100mほどでフィニッシュラインがある。最後の接戦で決まる可能性もある。ほぼ全体がフラットという珍しいサーキットだ。
桃佳は中倉の後ろで走って、1分31秒087をだし、予選17番手となった。KT社勢ではビリである。引っ張ってくれた中倉は1分30秒979で15位となっている。桃佳はスプリントと決勝でも中倉についていこうと心に決めている。ちなみにポールはA社のベルゼッキで1分30秒134のタイムをだしている。彼は地元出身なので、観客席は盛り上がっている。
夕方のスプリント。気温27度、路面温度37度とコンディションは上々だ。ほとんどのマシンが前ハード後ろソフトを選択している。
1周目は無難に終わった。桃佳はうまく中倉の後ろにつくことができた。16位に上がっている。
5周目、トップグループで走っていたクワントロが転倒。1コーナーでスリップダウンしていた。予選3番手だったので、トップをねらって無理をしたのかもしれない。これで桃佳は15位。
6周目、2位につけていたマルケル兄がトップのベルゼッキがコーナーでふくらんだところを見逃さず、トップにでる。ところがその直後の13コーナーでスリップダウン。グラベルを滑っていった。ベルゼッキを突き離そうとしてペースをあげたところだった。観客席では地元出身のベルゼッキがトップに返り咲いたので、大きな歓声があがっている。スペインもすごいが、イタリアも負けてはいない。桃佳はこれで14位。
11周目、KT社のベンダーがマシントラブルでストップ。後で知ったことだが、燃料ポンプのトラブルだったらしい。レース後に他の3台のマシンをチーフメカの岡崎さんがチェックしたが、異常はなかった。桃佳は13位にあがっている。
13周のレースが終了。中倉は12位。桃佳は13位とポイント圏内ではなかったが、完走し明日の決勝に結びつくことができた。スペンサーJr.は4位と表彰台まで、あと1歩というところで悔しがっていた。
日曜日、決勝。気温は昨日と同じ27度。路面温度は31度と昨日よりも涼しく感じる。
1周目、桃佳はまたもや中倉の後ろにつく。2コーナーでトラブル発生。ザルケとミロがからんで転倒。H社同士のつぶしあいとなった。桃佳はこれで14位にあがった。
2周目、A社のマルタンがロングラップペナルティを消化する。サイティングラップの際に反則行為をしてしまったのだ。彼は、もう一度ロングラップペナルティを消化しなければならない。桃佳は13位にあがる。
4周目、右の9コーナーで中倉が転倒してしまった。桃佳もあやうくつられて転倒するところだったが、何とかこらえることができた。これで13位にあがったが、目標のライダーが目の前からいなくなったので、自分の走りをするしかなかった。
8周目、コースサイドにスペンサーJr.がマシンを停めている。マシンをたたいて悔しがっている。後でわかったことだが、チェーンがきれたということだ。昨日のベンダーといい、KT社勢にトラブルが続いている。桃佳は12位にアップ。
9周目、中倉が転倒したところでバーニーも転倒。彼は地元レースなのに、なにか乗り切れていない。師匠であるルッシが応援にきてくれていたのに、いいところが見せられなくてガックリしていた。桃佳は11位。なんかサバイバルレースになってきた。
11周目、Y社のリースがまたまた9コーナーで転倒。今回は鬼門のコーナーとなっている。桃佳は10位にあがった。
13周目、KT社のヴィニャールが13コーナーで転倒。タイヤがたれてくると厳しいコーナーだ。これで桃佳は9位のシングルポジションにあがった。
18周目、ずっとベルゼッキの後ろを走っていたマルケル兄が13コーナーで抜く。昨日転倒した箇所で、抜き返した。意地っ張りのマルケル兄らしい。
レースはそのままで終わった。完走は16台。7台がリタイアした。桃佳はビリ争いではなく、中間で走れるようになってきた。
ピットにもどるとスペンサーJr.がオーナーのハインツ氏にくってかかっていた。
「 Why is there so much trouble ? 」
(なんでこんなにトラブルが起きるんだ!)
と、自分の激しい走りを棚にあげて抗議している。ハインツ氏は怒らずに何とかなだめようとしている。
澄江さんがドリンクをもってきてくれた、
「次はいよいよ日本ですね」
と言ってくれる。桃佳も2週間後の日本GPを楽しみにしている。
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