第4話  スキルの本性

フォンは、あと一歩遅ければ死んでいた。

その事実が俺の心を蝕む。


相棒が傷つけられるのを、防げなかった自分への失望。

そして、その原因を作った黒幕への怒り。

憎悪と自責の念が、意識をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。


「....ダメだ。一度冷静にならねぇと」


憎しみは復讐の原動力。

だが、浸ったままでは敵に利用されるかもしれない。

確実にあいつらを殺すために。

冷静に――


一度、深呼吸。


「......」


頭が冷え、考える余裕が生まれる。


今、着目すべきは手に入れただ。

あの力で窮地を脱せた。

だが、不可解なことが多すぎる。


あの力は一体なんだったんだ?

力を引き出すまでの流れを振り返る。


あれは俺自身の力でなく、シタールから流れきてきた魔力に見えた。


「.....まさか」


魔力を得る直前、シタールが剣を落とした。

握れなくなるほどの力を失ったということ。

対して俺は、限界を超えた力を手にしていた。


つまりあの瞬間──


「俺があいつの魔力を奪っていた.........」


スキルの能力は、魔力奪取なのか?


一瞬そんな考えが浮かぶも、頭を振る。


「....楽観的すぎるか」


覚醒に憎しみという、無茶な要求をしてくるスキルのことだ。

さっき奪ったスキルにも何か対価が....。


そう考えた途端、頭に声が響いた。


《返済期限が近づいています。本日中にお支払いただく魔力は、50です。》


50。

俺の魔力の二倍弱。


《覚醒特典を確認。特典により、魔力本日中にお支払いただく魔力は、0になりました。》



..........覚醒特典。

何だかよく分からない言葉によって、負債地獄は免れたようだ。

安堵により思わずため息が出る。


《現在のステータスについて知りたい場合は、”ステータス”オープンと唱えてください。右目にプロンプトが表示されます》


「....ステータス、オープン」


――――――――――――――――――――

リザヤ


Eランク

Lv1(永久)


魔力 30


5大ステータス

攻撃  8

防御  4

魔法  5

魔防  3

速さ 10


ポイント残量

MP24/33

HP37/60


※特典により支払い済み

負債元本 100

本日の利子 50

負債合計 150


スキル 力の前貸し new!(バンス、前借りの場合はリースと唱える。)


ランク1

  ・..........................................................

  ・............................................................

ランク2

  ・............................................................

  ・.............................................................

 ・

 ・

 ・

――――――――――――――――――――


表示されたステータスに視線を走らせる。

レベルはもちろん永久レベル1。

魔力の数値も低いのは納得だ。


そして──


「5大ステータス…」


概念としては知っていた。

だが、その数値は初めてみる。

数値は…全部足して30。

やはり魔力と一致する。

これらは…魔力の内訳うちわけというのは本当らしい。


次にポイント残量。

文字通りMP、HP共に消費している。


そして──**「負債」の項目。

俺が本来払うはずだった、魔力。

**そこに並んだ数字に、思わず息を呑んだ。


「……!?!?」


負債合計150。

おかしい。

俺が返す利子は50のはずだ。

ならこの100は…。


「もしかして借りた魔力の元本か…」


なぜ元本が負債として計上されている?


魔力は器のようなもの。

入っている(MP)は減っても、器のサイズ事態は変わらない。

…まさか、借りた魔力は、まだ俺の中にあるのか?


ともかく、特典のおかげで負債を負ってないのは不幸中の幸いだ。

だが、この負債の帳消しはいつまで続くか分からない。

前借りリースに頼るのは、ここぞという場面にしておこう。


となると、敵と渡り合うために何か別の方法を模索する必要がある。


再度自分のステータスを見直す。

何かヒントが隠されているかもしれない。


最後まで目を通したとき、スキル名に目が止まる。

その名称に違和感を覚えた。



「前借り」ではなく、「前貸し」だ。

ここで、一つの仮説が浮かぶ。


もし本来の能力が、力を貸すことで利子を得ることだとしたら。

....負債を負うのは自分ではなく相手。


この前貸しを上手く活用できれば——

前借りリースに頼らずとも、魔力を増やせるかもしれない。


……では、どう魔力を奪うか?

前貸しするということは、相手に魔力を渡すことになる。

それなら——


すでに前借りした魔力を一旦、別の相手に貸し出す。

その後、貸した相手から利子を回収する。

つまり、魔力の「又貸し」。


これなら、魔力を増やせるはずだ。



「...............」


考えろ。

他に懸念すべき点はないか。

.................................................

..........................

.................


「ブオオオオオオオオオオオオ!!!」


後ろから、魔物が接近してきた。

豚のような頭と人型の体が特徴の、オークだ。

どうやら、目的地に到達したらしい。


魔境の森に。


ズドドドドドドドドド!!


オークが咆哮し、斧を振り上げる。


「......試す機会がきたか」


又貸しで魔力を増やすことを考えると、対象は2体必要だ。

しかし、目の前にいるのは一体だけ。


「ここは、一旦——」


相手から逃げるように森の奥へと走る。

当然、オークも追ってきた。

全速力で走るも、その差は縮まっていく。


振り返ると、オークがすぐ側まで迫っていた。

——くそっ、こうなったら....!!


「.....ファイヤーボール!」


一か八か、貴重なmpを消費して火の魔法を放つ。


すると予想外にも、オークはかなり焦りながら攻撃を交わした。

隙ができたおかげで、距離が開く。


「ブォォォォォォォォッ!!」


怒声に振り返ると、奴が斧を振り回して俺を威嚇する。


.....これだ!


まず、俺は近くの木まで猛ダッシュする。

そして、逃げる手段を逃走から木登りに切り替える。

相手が届かない距離までよじ登った。


相手は斧を持っている。

武器を捨てなければ木登りは不可能だ。


さぁ、どう動く?


しばらく俺を見つめるオーク。

そして、行動を開始した——


ガッ!!バキッ!!メキメキ!!


斧で木をなぎ倒しにかかる。


どうする?

木が折れる前に下に降りるか?

…否、待ち構えているオークに捕まるだけだ。

でも、木が折れるのを待っても、結局同じ。


他に逃げる方法は?


その時だった。


バキッバキッ!!


木が傾き始めた。


木の先端が他の木に近づく。

別の木に飛び移れるかもしれない。


俺は木の頂上を目指して進む。

木が傾いて、他の木との距離が近づく。


バキッ!!メキメキ.......


もう一振りされたら、完全に折れる……

だが同時に、最も傾いて他の木に近づいた。


木のしなりを利用して、正面の木に飛び移る。


「ブオオオオオオオオオオ!!!」


振り出しに戻り、完全に頭に来たのか、叫び始めた。


しばらく経つと、別のオークがこちらに向かってやってくる。


「やっと仲間を呼んだな」


これまで仲間を呼ばなかった理由は、獲物を独り占めしたかったからだろう。


通常、仲間を呼ぶのは最悪のパターン。

だが又貸しには2体必要だ。

今の自分にとっては、望ましい状況。


俺は、手前にいるオークがギリギリ届かない距離まで木を降りる。


.............ここからが勝負どころ。

まず、木で待ち構えているオークをどうにかしなければ。

仲間のオークが挟み撃ちしてくる前に……


前借りリース!」


《前借りには対象が2体必要です。》


否定の説明が入る。

前借りには2体がある程度近づく必要があるのか。


それでも——


前借りリース!」


前借りリース!」


何度もスキルを唱え続ける。

前借りの発動の距離。

それも最も離れた位置での発動を逃さないために。


前借りリース!」


前借りリース!」


《前借りを発動します。》


.......いまだ!!





――――――――――――――――――――


【恐れ入りますが、下記をどうかお願いいたします】


ここまでお読みいただきありがとうございます!


本作を読んで少しでも面白いと思っていただけたなら、



フォローや下の『☆で称える』の+ボタンを3回押し評価していただけると嬉しいです。

何卒よろしくお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る