魔王討伐後の転生勇者は暇なので魔法塾を開いたら、なぜか教え子たちが〈天才魔法使い〉に育っていく〜魔法使い育成教室へようこそ!〜
御子柴奈々
第一章 魔法使い育成教室
第1話 英雄凱旋
「勇者様ー!」
「世界を救ってくれてありがとう!」
「キャー! 勇者様ぁ! カッコいい!」
「勇者様! こっち向いてー!」
──英雄凱旋。
俺は異世界に勇者として転生し、十五歳から十年かけて魔王を討伐した。俺を含む四人パーティは一人の犠牲も出すことはなく、無事に世界を救ったのだ。いや本当に大変だった……何度も死ぬ気がしたが、何とか俺たちは生き残ったのだ。
パレードは盛大に行われ、俺は精一杯勇者を演じることにした。いや、実際には勇者なんだが。
みんなが求める偶像としての〈勇者〉としての姿を見せたって感じだ。本当の俺は勇者なんて柄ではなかったから。
キラキラしたイケメン勇者を演じるのは、かなり微妙な気分だったけど、それでも十年の時を経て魔王を倒したのは──本当に良かった。
そしてそれから、一年の時が経過した。
「──暇だ……」
見慣れた天井を見つめる。魔王討伐によって──富、名声、栄誉。その全てを手に入れた俺だが、別に使い道はなかった。そもそも目立つのは好きじゃないし、今は黒髪姿で一般人のように過ごしている。
ただ問題は──普通に暇だった。初めはもう社畜みたいな旅はしなくていいんだ! と思ったけど、いざやる事がないと本当に無気力だった。意外と人生とはバランスが大事で、やることがないと逆に困っていた。
惰眠を貪り、なんかテキトーに本とか読んで、散歩してご飯を食べて寝る。
うん。老後の生活かな? 今は王都の豪邸を貰って一人で暮らしているけど、こんな豪邸も本当は必要ない。トイレとか遠過ぎて逆に不便だしな……。
思ったよりも自分は空虚な人間であることを知ってしまった、悲しい一年間だった……。
「さて。どうしたもんか……」
大きなリビングのソファーで呟くと、ベルの音が鳴った。玄関も遠いから面倒なんだよなぁ。メイドでも雇うか? うーん、でも自分で生活できるし、今更だよなぁ……。
玄関から外に出て、門を開けにいくとそこにいたのはかつての仲間だった──〈魔法使い〉のソフィーだった。今は魔法協会の重鎮になっていて、忙しいらしい。
「やっほー。元気してる。ソラ?」
「体調は普通だな」
「ふぅん。相変わらず、何もしてないの?」
「そうだな。ま、とりあえず家入るか?」
「えぇ。失礼するわ」
ソフィーをリビングに案内して、俺は彼女に紅茶を淹れる。
「ほいよ」
「ありがと。相変わらず、メイドの一人も雇ってないの?」
「ないな。生活は自分一人で出来るし」
「ふぅん。相変わらずね」
俺も紅茶を口にするが、我ながら美味い。この一年で料理は本当に上手くなったんだよなぁ。なかなか披露する機会がないので、悲しいが……。
「それで、いい加減働かないの?」
「あー。それなー」
「やる気なさそうね」
俺は既に魔王討伐の旅を終えている。あの時のように、全力で何かをする気力は残っていない。が、暇という問題に直面していた。バイトくらいするか?
「でも、実際この生活も暇なんだよなぁ。働いたほうがいいと思うけど」
「なら、魔法協会に来なさいよ。私が口を聞いてあげるからさ。ね?」
じっと上目遣いで見つめてくるソフィー。この一年で魔法協会にはよく勧誘されたが、俺はその度に断っていた。
なぜならば──
「嫌だ。俺、上の立場とか絶対無理だ」
「名前だけでもいいのに」
「それこそ失礼だろ。というか、あんまり勇者として目立ちたくない。俺はただの一般人のソラでいい」
「はぁ……本当に変わってるわね。でも、それがソラらしいけどね」
「なんとでも言ってくれ。俺はひっそりとしていたんだ」
俺は絶対に組織で働くとか向いてない。
それだけは間違いなく分かっている。
自分の資質は前世から変わっていないから。
「なら、個人で魔法でも教えたら? あなた、かなりの理論派だったでしょ? なんかよく分からない独自の魔法理論とか語ってたし。教えるのは、今は結構需要あるのよ。〈魔法競技〉って知ってる? 最近かなり盛り上がってきて、本当に凄い熱狂で──」
「……!」
それはまさに天啓だった。そうだ。組織が向いてないなら、個人で働けばいいじゃないか! なんでそんな事を思いつかなかったんだろう。
「──確かに。それはアリだ」
魔法を教える、か。俺はそもそも飛び抜けた才能があったわけではない。魔力は割とあったが、それを操るの苦労したものだ。
理論、理屈、技術。その全てを駆使して自分なりの魔法理論を確立して、魔王討伐に至った。
魔法とは技術であり、技術には再現性がある。もちろん才能も必要だが、その技術を学ぶことも重要だ。俺の魔王討伐の旅において培った知識を、誰かに教えるのは悪い考えではない。
「ね。いいアイデアでしょ? もし良かったら私も手伝うけど──」
「いや、ソフィーは忙しいだろ? 俺一人でやるよ。そうか。一人でやるとなると、色々と準備しないとな。まずは──」
「えっ……」
一人でぶつぶつと呟いて構想を練る。あまりやる気はないが、やるとしたら確かに俺には向いてそうだ。意外と考え始めると、スムーズに考えはまとまった。
それから俺はすぐに屋敷を売り払った。まとまった金がまた手に入ったが、それは全て初期費用に当てる。
教室も必要になってくるし、座学だけじゃなくて実践もいると広めの空間が欲しいな。なら、王都でやる必要もないか。もともと人が多いところは苦手だし、都会過ぎず田舎過ぎない近隣の町にしよう。
時間はあっという間に過ぎていった。そして、準備が完了してついに俺は王都を去ることになった。
「本当に出ていくのね。相変わらず、一度決めたら行動力が凄いというか……」
「ソフィーのおかけで新しい一歩を踏み出せそうだ。ありがとう」
「うぅ。余計なことしちゃったなぁ……」
ソフィアはボソッと何か呟いた気がしたが、よく聞こえなかった。
俺は荷物を詰めたカバンを握る。基本的な荷物はもう輸送してあるし、明日以降に受け取ることになっている。
「じゃあ、俺は行くよ。もし、二人に会ったら伝えといてくれ」
「うん。暇な時は私も行くからね! 引越しの荷解きとか手伝うし」
「あぁ。ソフィーも頑張ってな」
「うん。ソラも頑張ってね。もし何かあったら、すぐに戻ってきていいからね」
俺はソフィーに見送られて、ついに王都から出ていくことになった。さて、久しぶりの労働だ。俺は一体どんな生徒と出会うことができるのか。
そんな未来に想いを馳せつつ、俺は新しい人生に向けて歩みを進めていく。
しかしこの時の俺は、まさかこの安易な選択が世界を揺るがすことになるなんて──思ってもみなかった。
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