『卑怯者の異世界商売 〜戦わずして勝つ俺は、今日も合理的にのし上がる〜』

@pakpak100

第1話 転移の瞬間


 神崎蓮司(かんざき・れんじ)は、自分を「合理的な人間」だと考えていた。

 他人が非効率なことに労力を割くのを見て、心の底からバカだなと思っていた。


 「無駄な努力」「無駄な正直さ」「無駄な責任感」

 そんなものは生きる上で何の価値もない。


 蓮司は悪事を働いたことはない。ただ、いつも「楽な道」を選んできた。

• 宿題は「分かるやつ」にうまく取り入って写させてもらう。

• 体育の授業では「持病がある」と嘘をついて見学。

• 掃除当番は「先生に頼まれた用事がある」とサボり、他人に押し付ける。

• ゲームでは味方を見捨てて自分だけ生き残る。


 蓮司の人生は、他人に労力を押し付け、自分は最小限の努力で最大の利益を得ることに最適化されていた。

 当然ながら、彼は周囲から嫌われた。


 親は蓮司を「卑怯な息子」と呼び、クラスメイトは関わらないようにし、教師ですら呆れていた。

 だが、蓮司は「なぜ?」と疑問に思っていた。


 「バカ正直に生きるやつが愚かなんだ。俺はただ賢く、効率的にやってるだけ」


 そんなある日——


 またいつものように学校でズルを働き、それがバレて親に叱られた。


 「いい加減にしなさい! そんなやり方じゃ、誰にも信用されなくなるわよ!」


 母親はそう怒鳴りつけ、蓮司を部屋に閉じ込めた。


 「……はぁ、またかよ」


 蓮司はベッドに寝転びながら鼻で笑った。


 「やれやれ、バカどもは感情的で困る。俺は正しい選択をしているのに」


 反省なんてしない。ただ、「次はもっと上手くやるにはどうすればいいか」を考える。


 その時だった。


 ──突然、部屋が暗転した。


 視界が歪み、耳鳴りが響く。

 全身がふわりと浮かび、まるで夢の中に引きずり込まれるような感覚——


 「……え?」


 次の瞬間、神崎蓮司の身体は闇に飲み込まれた。


 蓮司が目を覚ますと、そこは豪奢な大広間だった。


 大理石の床に、金装飾の柱。

 高くそびえる天井には、美しく輝くシャンデリアが吊るされている。


 (……なるほど、どうやらファンタジー世界の王城ってやつか)


 周囲には、同じように呆然とした顔をした男女が十数人ほど立ち尽くしていた。

 日本人らしき顔立ちの者もいれば、西洋系の者もいる。服装もまちまちだ。


 そんな中、王座の前に立つ豪奢な衣装の老人が、朗々とした声で語り始めた。


 「異世界よりの勇者たちよ! 我が国、エルドラン王国は今、魔王軍の侵攻を受け、存亡の危機にある!」


 「そこで、我らは異世界より勇者を召喚したのだ!」


 (……あー、テンプレなやつだな)


 蓮司は興味なさげに話を聞きながら、頭の中で状況整理をしていた。


 「魔王討伐」「異世界転移」「勇者召喚」

 典型的な異世界ファンタジーの設定だ。


 他の召喚者たちは、突然の出来事に混乱しながらも、王の話に耳を傾けていた。

 その中の一人、スポーツ刈りの体格のいい男が、いきなり叫び出す。


 「ふざけるな! 俺たちはこんな世界に来たくて来たんじゃねぇ!」


 「元の世界に帰せ!」


 (あー、こういうやついるよな)


 蓮司は彼を横目に見ながら、冷静に状況を観察した。


 (帰れるわけねぇだろ、こういうのは)


 騒ぐ男に対し、王は何とも言えない微妙な表情をしている。

 つまり、「帰還方法はない」か「教える気がない」かのどちらかだ。


 「……さて、俺の状況はどうなってる?」


 そう考えた瞬間、頭の中に自分のスキル情報が浮かんだ。


 スキル:《卑怯者》


 説明文——なし。


 「……は?」


 蓮司は思わず眉をひそめた。

 スキル名が酷すぎる。だが、それ以上に説明がないのが気に食わない。


 (普通は《剣聖》とか《魔法使い》とか、それっぽいスキルがあるもんだろ)


 (それが《卑怯者》って……どういうことだよ)


 スキルの詳細が分からない以上、何ができるのかも分からない。


 「魔力量を測定する」


 そう告げられたのは、その直後だった。

王国の兵士が、召喚者たちを並ばせる。

 一人ずつ、魔力測定の儀式が行われるらしい。


 「魔力が多ければ強い魔法が使える」

 この世界は魔力量が絶対的な強さの基準だという。


 先に測った者たちは、だいたい「500」とか「700」とかいう数値を叩き出していた。

 最も高い者は「1200」という驚異的な数値を記録し、周囲がざわめく。


 (ほう……魔力量が強さを決めるってことか)


 蓮司は冷静に観察しながら、自分の番を待った。

 そして、ついに測定の順番が回ってきた。


 「次、お前だ」


 前に進み、兵士から手のひらサイズの水晶玉を渡される。


 「そこに手をかざせ。お前の魔力量が数値化される」


 蓮司は無言で水晶玉に手を当てた。


 次の瞬間——


 「10」


 周囲が静まり返る。


 「……え?」


 「たったの10……?」


 「いや、ありえん……最低でも100はあるはずだろ……?」


 騎士や大臣がざわざわと話し始める。


 蓮司は、静かにため息をついた。


 (……まぁ、こんなことだろうと思ったよ)


 この世界は魔力量が物を言う世界。

 つまり、魔力量が低い=戦力外ということだ。


 兵士の一人が、王に向かって言う。


 「陛下……彼は……」


 「うむ……」


 王は少しの間、考え込むような素振りを見せたが——


 「魔力量が低すぎる者に支援はできぬ。追放せよ」


 ——即決だった。


 蓮司は、問答無用で王城の外へと放り出された。

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