繋がれた手と手

第1話

「遼ちゃん…。」



 みのりの口から、優しくそう発せられた瞬間、遼太郎の心も体も凝固した 。


 立ち尽くしてしまった遼太郎の中には、みのりの声がこだまする。

 その呼び方は親友の二俣が自分を呼ぶときと同じだったが、遼太郎の耳には、全く違う響きとなって届いた。



 名を呼んだ当のみのりは、遼太郎の反応に気が付いていないらしく、足を止めることなく数メートル先まで歩いて行ってしまった。


 遼太郎の耳に、先ほどから自分を取り巻いていた遠くの小川のせせらぎと小鳥のさえずりが戻ってくる。何事もなかったかのように、みのりはどんどん先へと歩を進める。


 みのりがそう言ったのは錯覚だったのかと、遼太郎が思い直した時、みのりは遼太郎が横にいないことに気が付いて振り向いた。



「…って、呼んじゃダメ…?」



 そう言って、みのりが首を傾げて肩をすくめる。

 その仕草に胸を撃ち抜かれた遼太郎は、途端に再び固まって息を呑みこんだ。息苦しいのと胸の動悸で、みるみる顔が赤くなる。



「…いや、あの…。」



「ダメじゃない」…と言いたかったが、言葉が出て来ず、遼太郎はうろたえた。

 その気色を読んだみのりは、顔を曇らせてもう一度肩をすくめた。

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