第31話 遊園地当日





 天気予報は雨と言っていたけど外れた。朝から晴天で、お母さんが言うには「梅雨晴れ」というものらしかった。


 私は今日のメンバー6人の中で、誰かが晴れ女なのではないかと考えた。直感だけど、こうしてみんなを誘ってくれたアキかなと思った。


 目の前には那真栄ランド名物のジェットコースターがある。先に乗っている人たちは「キャー」と甲高い声を上げて楽しそうだ。急角度から直下していく様子は、側から見ていてもワクワクする。フリーパスを買った私たちは、早速、6人で今から乗ろうとしていた。


「ララちゃん、私たち隣で良いよね?」


「別に良いけど……」


 飯塚さんは無邪気にララの肩を組む。


 私たちは、ジェットコースターの列に並びながら、隣同士に座るメンバーを決めていた。


 アキと凛香ちゃんは暗黙の了解でペアになっている。飯塚さんは、この中で一番仲が良いララを指名していた。


 そうなれば、私はナナミンと隣同士で座ることになる。不服はないけど、気持ちが晴れなかった。


 浮かない顔をしていたからだろうか……。


「マコ、絶叫系苦手?」


 ナナミンが様子を伺うように声をかけてきた。


「苦手じゃないよ! むしろ大好き! 今から楽しみだなぁ」


 無理にテンションを上げようとしている自分に気付く。


 私の目の前では、飯塚さんがララと肩を並べて楽しそうにお喋りをしている。主に、飯塚さんが身振り手振りを使ってマシンガントークをしているのに対して、ララは静かに聞き役に回っている。


 しかし、面倒そうな表情を浮かべることはなく、私と話すようないつもの調子で受け答えをしている。


 間近で他の人と喋っているララの姿を見たくなくて、意識的にナナミンを見ながら、座席に案内される、その瞬間をひたすら待った。


 程なくして、スタッフが私たちを誘導する番になる。


「お待たせしました〜。お好きなところにお座りください♪」


 スタッフが人の良さそうな笑みを浮かべる。


「えっ。自由に選べるんだ! じゃあさ……」


「ちょっ」


 飯塚さんはララの腕を引っ張り、一番前の座席に座ろうとしていた。


「マコ、どこに座る?」


 ナナミンが聞いてくる。私はララと飯塚さんから目が離せず、二人の後ろの座席を指さした。


 アキと凛香ちゃんのペアは、絶叫系がそれほど得意ではないということで、一番後ろの座席を選んだ。


 安全バーを下ろした後、スタッフが確認し、コール音が流れた後で、ジェットコースターが少しずつ動いた。


 カタカタカタと恐怖心を煽る音を奏でながら、上へ上へとのぼっていく。


 あっ。景色がきれい。


 街並みがクリアに見えて、一瞬、観覧車に乗っているような錯覚に陥った。


 しかし、下にあるコーヒーカップの遊具も見え始めたことで、佳境に差し掛かっていることに気づく。


 あっ。ちょっとだけ怖いかも。

 

 ジェットコースターが落下する瞬間、ララは飯塚さんに寄り添っているのが見えた。それはまるでスローモーションのようだった。ララって意外と怖がりなんだ。


 自分の中にある見苦しいものが刺激されて、絶望感が何倍にも膨れ上がった。


「キャーーーー!」


 ナナミンや、他の人がそこかしこから叫ぶ声が聞こえてくる。


 私は何も口にすることができなかった。正確には、何か言っていたのかもしれない。だけど、ララの一挙一動に翻弄されっぱなしの自分を、上手く客観視することができなかった。


 せっかくの遊園地……できることなら存分に楽しみたい。私は午後からも上手く笑ったまま、やり過ごすことができるのだろうか。


 6人で遊園地に来たものの、最初は私とナナミン、飯塚さんとララ、アキと凛香ちゃんのペアでアトラクションに乗ることが多かった。時間が経つにつれて、徐々に打ち解けてきたからだろうか。


 飯塚さんが、「今度はグーチョキパーで隣に乗る人を決めない?」と言い出した。


 目の前には、くるくる宙を舞うアトラクションがあった。


「……賛成です」


「いいね!」


「そうしよっか〜」


 意を唱えるものはいなかった。


「じゃあ、いくよー!」


 6人でグーチョキパーを何度かした。


 すると、ナナミンと凛香ちゃん、飯塚さんとアキ、ーーそして私とララがペアになった。


 ララの方をチラッと見ると目が合った。反射的に胸が跳ねる。今日初めて、お互いの顔を見たような気がした。


 ララはオシャレな柄物のシャツにデニムスカートを合わせた服装をしていた。思い返せば私服を見るのも今日が初めてだった。


「じゃあ、決まりね! このメンバーで隣同士に乗ろうー!」


 飯塚さんが、ひときわ明るい声を出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る