第31話 遊園地当日
◇
天気予報は雨と言っていたけど外れた。朝から晴天で、お母さんが言うには「梅雨晴れ」というものらしかった。
私は今日のメンバー6人の中で、誰かが晴れ女なのではないかと考えた。直感だけど、こうしてみんなを誘ってくれたアキかなと思った。
目の前には那真栄ランド名物のジェットコースターがある。先に乗っている人たちは「キャー」と甲高い声を上げて楽しそうだ。急角度から直下していく様子は、側から見ていてもワクワクする。フリーパスを買った私たちは、早速、6人で今から乗ろうとしていた。
「ララちゃん、私たち隣で良いよね?」
「別に良いけど……」
飯塚さんは無邪気にララの肩を組む。
私たちは、ジェットコースターの列に並びながら、隣同士に座るメンバーを決めていた。
アキと凛香ちゃんは暗黙の了解でペアになっている。飯塚さんは、この中で一番仲が良いララを指名していた。
そうなれば、私はナナミンと隣同士で座ることになる。不服はないけど、気持ちが晴れなかった。
浮かない顔をしていたからだろうか……。
「マコ、絶叫系苦手?」
ナナミンが様子を伺うように声をかけてきた。
「苦手じゃないよ! むしろ大好き! 今から楽しみだなぁ」
無理にテンションを上げようとしている自分に気付く。
私の目の前では、飯塚さんがララと肩を並べて楽しそうにお喋りをしている。主に、飯塚さんが身振り手振りを使ってマシンガントークをしているのに対して、ララは静かに聞き役に回っている。
しかし、面倒そうな表情を浮かべることはなく、私と話すようないつもの調子で受け答えをしている。
間近で他の人と喋っているララの姿を見たくなくて、意識的にナナミンを見ながら、座席に案内される、その瞬間をひたすら待った。
程なくして、スタッフが私たちを誘導する番になる。
「お待たせしました〜。お好きなところにお座りください♪」
スタッフが人の良さそうな笑みを浮かべる。
「えっ。自由に選べるんだ! じゃあさ……」
「ちょっ」
飯塚さんはララの腕を引っ張り、一番前の座席に座ろうとしていた。
「マコ、どこに座る?」
ナナミンが聞いてくる。私はララと飯塚さんから目が離せず、二人の後ろの座席を指さした。
アキと凛香ちゃんのペアは、絶叫系がそれほど得意ではないということで、一番後ろの座席を選んだ。
安全バーを下ろした後、スタッフが確認し、コール音が流れた後で、ジェットコースターが少しずつ動いた。
カタカタカタと恐怖心を煽る音を奏でながら、上へ上へとのぼっていく。
あっ。景色がきれい。
街並みがクリアに見えて、一瞬、観覧車に乗っているような錯覚に陥った。
しかし、下にあるコーヒーカップの遊具も見え始めたことで、佳境に差し掛かっていることに気づく。
あっ。ちょっとだけ怖いかも。
ジェットコースターが落下する瞬間、ララは飯塚さんに寄り添っているのが見えた。それはまるでスローモーションのようだった。ララって意外と怖がりなんだ。
自分の中にある見苦しいものが刺激されて、絶望感が何倍にも膨れ上がった。
「キャーーーー!」
ナナミンや、他の人がそこかしこから叫ぶ声が聞こえてくる。
私は何も口にすることができなかった。正確には、何か言っていたのかもしれない。だけど、ララの一挙一動に翻弄されっぱなしの自分を、上手く客観視することができなかった。
せっかくの遊園地……できることなら存分に楽しみたい。私は午後からも上手く笑ったまま、やり過ごすことができるのだろうか。
6人で遊園地に来たものの、最初は私とナナミン、飯塚さんとララ、アキと凛香ちゃんのペアでアトラクションに乗ることが多かった。時間が経つにつれて、徐々に打ち解けてきたからだろうか。
飯塚さんが、「今度はグーチョキパーで隣に乗る人を決めない?」と言い出した。
目の前には、くるくる宙を舞うアトラクションがあった。
「……賛成です」
「いいね!」
「そうしよっか〜」
意を唱えるものはいなかった。
「じゃあ、いくよー!」
6人でグーチョキパーを何度かした。
すると、ナナミンと凛香ちゃん、飯塚さんとアキ、ーーそして私とララがペアになった。
ララの方をチラッと見ると目が合った。反射的に胸が跳ねる。今日初めて、お互いの顔を見たような気がした。
ララはオシャレな柄物のシャツにデニムスカートを合わせた服装をしていた。思い返せば私服を見るのも今日が初めてだった。
「じゃあ、決まりね! このメンバーで隣同士に乗ろうー!」
飯塚さんが、ひときわ明るい声を出した。
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