第9話

ケーキはどれも小さくカットされていて、自分で取るスタイルだったけれど、料理はそうではなかった。


どうやら一人分の量が決まっているらしく、スタッフの人がラザニアをカットしてお皿によそってくれる。

それを見ながら、本当は「その3分の1でいいです」と言いたかった。

少ない分にはもう一度くればいいのだろうけど、その逆は困ってしまう。

海老の生春巻きも食べたかったけれど、この調子だと「一つだけでいいです」とはいかないかもしれない。


友達の乙葉と時々ランチビュッフェに行くことがあるけれど、それは自分でお皿にとるタイプだった。

お高いところは違うらしい。


すぐにお腹が満たされてしまう自分が恨めしい。

決して食べるのが嫌いなわけじゃないんだけど。


思えば小学生の頃、随分と給食の量を減らしてもらってた。本当のところ、もう少し食べることはできた。でも食べるのが遅いから、それを考慮してのことだったけれど、周りに心配された。


お酒も超がつくほど弱いので、飲みに行っても、「食べない・飲まない」で、気を遣われるので、親しい人としかご飯は食べに行かない。


だから誘われて行くのは「合コンの人数合わせ」くらい。これは食べても食べなくても誰も気にしないし、なんとなく人助けみたいで行きやすい。



ラザニアのお皿を持って席に着くと、大崎くんが話しかけてきた。



「湯葉あったよ。好きでしょ?」


「食べたいけど……」


「3分の2、引き取るよ」



言う前から大崎くんは、わたしのお皿の上のラザニアをナイフでカットして、3分の2を自分のお皿に移していた。

大崎くんのお皿にはナイフを使うような料理はのっていないので、どうしてナイフがあるんだろう?と思っていたら、答えを先回りされた。



「さっきラザニア食べるって言ってたから。はいどうぞ」



小皿に入った湯葉をくれた。



「ありがとう」


「オレ、よく食べるんだよね」


「そうだね。知ってる」


「足したらちょうどいい」



座っていたのは6人テーブルではあったけれど、芽衣は瑛二くんとばかり話している。大勢でいるのに、彼氏とだけ話すような子じゃないから、これはわざと。

だから真花ちゃんはずっと青木くんとふたりで話をしていた。



ラザニアを一口食べて、思わず「美味しい」と声が出た。

中に大豆が入っているのは初めて。



「そんなに美味しかったんだ」



青木くんが話しかけてきた。ついさっきまで真花ちゃんと話してたはずなのに。



「美雨ちゃんはチーズが好きだもんね」



わたしが返事をする前に、芽衣が会話に入ってきた。



「あ、じゃあ、ワインも好きな方?」



青木くんの次の質問に答えたのも芽衣。



「美雨ちゃんはお酒飲まない人。大崎さんは飲む人?」


「オレは普通に飲むよ。結構強い」


「自分で言っちゃうってことは、かなり強いってことですね」



真花ちゃんが大崎くんに話しかけたけれど、大崎くんは「かな」と笑顔で一言返しただけだった。それで、真花ちゃんはまた青木くんに話をふった。



「青木さんは赤と白どっちが好きなんですか?」


「あー、どちらかと言えば白かなぁ」



わたしが一言も発する前に、また青木くんと真花ちゃんは再びふたりでの会話に戻った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る