壊れた魔術師と竜神少女

アルバス

逢瀬編

第1話 アノンは絶望した

 時はアグム王国暦530年。 

  

アグム王国にある魔術研究所の一角には一人の男がいた。彼の名前はアノン。最年少でアグム王国の王宮魔術師となった男だ。


 「最年少など、神童など、色々ともてはやされてきたが、すぐに重い期待を載せて無理難題を押し付けてくるとは困ったものだな。」


 アノンはそうつぶやいた。そして、最新の戦略級魔法の概要をまとめたレポートをまた。


 このアグム王国は先代の王が平和主義だったのに対し、今の王は各国に宣戦布告を吹っかけては、戦争ばかりしている。おかげで戦費とばかりに国民から沢山の税金を巻き上げた。しかも、最悪なことにその税金の半分は王の遊興費に消えている。この様子だと、一兵卒への給料はないに等しいのではと考えていたアノンだったが、そのようなことを口に出したら仕事を首になるどころか処刑台に立たされるとわかっていたので、心の中に押しとどめながら書類を書くペンのスピードを速めていた。


 「そういえば、今日でソウリヤと付き合い始めてから半年が経ったな。」


 ソウリヤはアノンの恋人だ。半年前、貴重な休暇を使い、王都にあるカフェにいた。そこで従業員として働いていた彼女に一目ぼれしたのだ。そして、その場でアノンは彼女に告白し、彼女がその告白をうけてくれたことで付き合うことができたのだ。仕事で忙しいながらもなんとか時間を作って、彼女といろんなところへデートに行ったものだ。


 「おや、先輩?なんか上の空っすね」


 そんなことを考えていると、後輩であるティリアに話しかけられた。彼女の名前はティリア・マクスウェル。魔法の名門であるマクスウェル公爵家のご令嬢だ。


 「ティリア嬢?君は貴族の、それも大貴族であるマクスウェル公爵の令嬢だろう?そのような話し方で怒られないのかい?」


 するとティリアはくすくすと笑った。


 「あんな堅苦しい家にいると窒息死するっす。やはり、ここはいいっすね。ここは魔法や魔術の最先端の研究所ですが、先輩を含めフランクな方が多いのでこちらも安心して砕けた口調で話せるっす。」


 「強かなものだな。」


 「そうでもしないとやっていけませんから。小さい頃は女ということでいろいろと差別されましたが、魔法の才能が優れているとわかると、あのクソ親父はすぐに手のひらを返してきやがりましたからね。あれには怒りや呆れを通り越してもはや尊敬すら覚えたっす。」


 「貴族というのも難儀なものだな。」


 「そういう先輩は平民かつ孤児ながらこの研究所に最年少で入ることを許されましたんですよね。」


 「最年少と言ってもそれはもう18年も前の話だ。今の僕はもう30歳だよ。」


 「それでもこの研究所の中では若いほうですし、それに先輩は軍人でもありますよね?」


 「魔法の才能から最初は軍人として育てられたが、この研究所の長である、フラウさんからこの研究所に引き抜かれたんだよ。最初は研究所でも魔術や魔法についての書物などを読まされたが、大変ながらも研究というのは楽しいものだと気づいたよ。今では研究者と軍人を掛け持ちしているようなものだ。」


 「そこらのブラックな研究所より仕事が多くないっすか?」


 「フラウさんに分身魔法や睡眠魔法を教わっていなかったら、すでに過労死していただろうよ。よほど重要な戦局でなければ普段は分身に戦争を任せているし、書類で忙しいながらもこの研究所は落ち着く。あと、君のコーヒーは実においしい。」


 「お上手っすね。そんなことを言われても、追加のコーヒーしか出ないっすよ。」


 そしてティリアはアノンに温かいコーヒーを淹れた。アノンはそのコーヒーの香りを楽しみつつ飲んだ。


 「そういえば、先輩?今日は早く帰る予定なんすね。」


 「ああ。彼女と付き合ってから半年は経つからね。最近は仕事が多くて3日位徹夜しているが、彼女との記念日は大事にしたいからね。彼女にプレゼントくらいは買わないと。」


 「先輩にこんなに大事に思われる彼女さんも幸せっすね」


 「いや、普段は仕事で家を空けているし、彼女と会えていない時間のほうが多いから、むしろ彼女には迷惑をかけているよ。」


 そしてアノンは話を区切り、書類をまとめた後、カバンをまとめて商店街に向かった。

 

 「お疲れ様っす、先輩。また明日。」


 「ああ、また明日な、ティリア嬢。」

─────────────────────────────────────

 「さて、プレゼントは何にしようかな。最近の女の子のは何を送るのがいいのだろう?やはりティリアに聞いておくべきだったかな。」


 そう考えながらアノンは商店街を歩いた。今日は12月12日。雪が降り、外は少し肌寒かった。そして、アノンはアクセサリーとマグカップを1組買ってから帰路についた。 


 アノンはアパートを借りており、ソウリヤと一緒に住んでいる。軍人としての仕事や研究員としての仕事でアノンは30歳ながらもかなりの貯金があった。


 「さて、久々の家だ。研究所にこもることが多かったからな。」


 そして、アノンが扉を開けると何かが軋む音がした。何の音かと思ったアノンが扉を開けると、そこではソウリヤが見知らぬ男とベッドの上で裸で交わっていた。


 「ああん、ジェイド、そこ♡そこ♡いいわぁ!」


 「彼氏が仕事を頑張っている中、お前は俺とこうしてお楽しみとはなぁ。」


 「ああん、言わないでぇ♡。あいつはただのあたしの財布なの。あなたが一番よ、ジェイドぉ♡」


 「悪い女だ。今日は彼氏は帰ってこねえのかぁ?」


 「どうせ、研究所にこもりっぱなしよ。帰ってくるはずがないわ♡」


 「なら、今日もヤリまくるかぁ」


 「ああん、来てぇ♡。ジェイドぉ♡」


 アノンは茫然とした。まだソウリヤとはキスしかしていないのに、そんな彼女が別の男とはベッドの上で乱れている。その事実にアノンは茫然とし、絶望した。今すぐその男をとっちめることも考えたが、ソウリヤとあまり一緒に入れなかった自分にも罪があると思うとやるせなくて、彼女に送る予定だったプレゼントをその場に落とし、アノンは家から走り出た。涙を流し、この世に絶望しながら。








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