22

 無邪気に笑う赤子を背負っている孔雀石涼は、鋭い眼差しで男たちを睨みつけていた。その孔雀石の背後から阿鷹尊が現れる。

「ミオさん、大丈夫ですか!」

 孔雀石の前にアゴ髭の男がゆっくりと歩いていった。

「なんだあ、てめえ」

 男はいきなり孔雀石の顔に拳を打ち込んできた。

 孔雀石は上身を後ろに引いて、鼻の前に紙一重の隙間で男の拳を躱した。届かなかった拳を引いて戻した男は、すぐに反対の拳を放つ。孔雀石は頭を横に倒してそれを避けた。

 孔雀石の耳の横を男の拳が通過していく。その先に笑っている赤子の顔があった。そのまま直進した拳が赤子に当たる寸前で止まり、今度は赤子の顔から離れていった。

「ぶぐわっ……」

 孔雀石が放った拳の先で歪んだ顔から涎と鼻血を散らしながら、男がソファーの上に浮いた。孔雀石から顔面にストレートパンチを食らった男はコタツの向こうの床の上にひっくり返った。

 それに注意を奪われた男たちから腕を外した大島美烏は、右の男の腹を蹴り飛ばし、左の男の胸に肘を撃ち込むと、男たちが怯んだ隙に孔雀石と阿鷹の傍に駆け寄った。

 コタツの向こうで頭を振ってなんとか立ち上がった男と、体勢を戻した二人の男たちを前にして、大島美烏と孔雀石涼はそれぞれ構えをとる。

 大島美烏は孔雀石に言った。

「さすが元プロボクサーね。助かった」

「何言ってんだ。まだ助けてねえよ」

 男達を睨みながらそう静かに言った孔雀石の背中の赤子を見て、大島美烏が顔をほころばせる。

「あらあ、大きくなったのねえ。元気でちゅかあ」

 孔雀石の背中の赤子に笑顔を向けている大島美烏に、孔雀石涼は言った。

「何事も経験だからな。早いうちから体験させておいた方が教育には良いと思ってな」

「だからって、これはちょっと早過ぎかもよ。奥さんは?」

「買い物中だ。替えのオムツとミルクを買いに行った」

「だからリョウが面倒見ているの。かあ、ホントに育児してたのねえ。子供ほったらかしてパチンコかゲームでもしてるんじゃないかって、みんなで心配してたのよ」

「おい! 何をゴチャゴチャ言ってやがる! この野郎、やってくれたじゃねえか」

 アゴ髭の男が鼻から血を垂らしながら、そう怒鳴った。

 赤子が泣き出す。

 大島美烏が孔雀石の後ろの赤子をあやしながら言った。

「ほらあ、泣かない泣かない、ベロブロブロロのヘリコプター。――ちょっと、子供が怖がるでしょ。怒鳴りなさんなよ」

 彼女はアゴ髭の男を強く睨んだ。

 すると、孔雀石涼が眉間に強く皺を寄せて、深刻そうな声で言った。

「それよりも、緊急事態発生だ。早く終わらせてしまおう」

 大島美烏が鼻を摘まんで頷く。

「そ、そうね。かなり立派なのが出たみたいね」

 男たちも赤子の排した大便の臭いに顔をしかめた。アゴ髭の男は言った。

「くっせ……。コノヤロウ、ふざけやがって。おい、おまえら、さっさと痛めつけろや!」

 命じられた二人の男たちが大島たちに飛び掛かる。

 大島美烏は身構えて叫んだ。

「タケル! 高級ミカンを死守!」

「え? みか……はい!」

 阿鷹尊はキッチンの方に走ると、シンクの陰にあるミカン箱の上に覆いかぶさった。

 背中の赤子と共に右に左に相手の拳を躱した孔雀石涼がリズムよく相手の顔面に拳を打ち込んでいく。

 一方の大島美烏はもう一人の男の腕を躱すと、その男の鳩尾に一撃を加え、間髪入れず顎に肘打ちを食らわせた。

 二人の男たちがアゴ髭の男の左右を過ぎて床に転がる。アゴ髭の男は袖で鼻血を拭くと、ポケットからナイフを取り出した。

「やるじゃねえか。だったらよ、こっちも本気でいかせてもらうわ」

 フラフラとしながら何とか立ち上がった二人の男たちも、それぞれ刃物を取り出す。

 男たちは怒声を上げて一斉に大島たちに襲い掛かっていった。

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